神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
ともかく、これだけは分かる。

二人の令月のうち、どちらかが。

二人のすぐりのうち、どちらかが。

二人のうち一人がもう片方のドッペルゲンガーで、『オオカミと七匹の子ヤギ』が生み出した偽物なのだ。

だけど、俺にはさっぱり区別がつかない。

両者共に窓から入ってきて。両者共にケーキの皿を持っていて。

そして両者共に、まるでオリジナルのような速さと強さを持っている。

これじゃあ、俺もシルナも区別出来ない。

ど…どっちが本物なんだ?

新旧の令月とすぐりは、お互いが偽物であると言い張っている。

どちらを信じたら良いのか、さっぱり…。

「羽久、僕が本物だよ」

新令月が俺に向かって言った。

え、そ、そうなの?

「俺も本物だよ。偽物に惑わされないでよ」

新すぐりもまた、俺にそう言った。

そ…そうなのか…。

その言葉を、信じてあげられたら良かったのだが。

「何言ってるの?羽久、本物は僕だよ」

「ちょっと。偽物の言葉に耳を貸さないでよねー」

旧令月と旧すぐりが、俺に向かって言った。

うっ…。

新旧両方の令月とすぐりを、何度も見比べる。

しかし、見た目で区別がつかない。

全く同じなんだから。見た目で判別出来るなら、ドッペルゲンガーの意味がない。

「勝手に僕らの格好をして…。羽久と学院長に何したの?」

「そっちこそ。僕達は畑で取れた野菜で作ったケーキを、羽久達に持ってきただけだよ」

あぁ、うん…かぼちゃケーキな。

すると。

「野菜だって?この時期に、何の野菜が取れたって?」

新すぐりが、食い気味に聞いた。

「見ての通り、かぼちゃだよ」

「ふざけたこと言わないでよ。うちの畑で、この時期にかぼちゃの収穫はない。お店で買ってきたかぼちゃでしょ、それ」

…え。

そうなの?

いや、味は普通に美味しかったんだけど。

ケーキに加工されてしまってるから、これが畑から取ってきたものなのか、スーパーで買ってきたものなのか、俺には分からない。
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