神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
そう聞くと何だか、新令月と新すぐり方が本物なのでは?という気がしてきた。

が。

かぼちゃケーキを持ってきた旧令月と旧すぐりも、負けてはいなかった。

「そっちこそ。偽物風情が、園芸部の畑の何を知ってるって言うのさ。君達が持ってきた、その変なパイは何?」

旧すぐりが、さっき新すぐりが床に置いた皿を指差す。

あぁ、そういえば。

新すぐりも、何か持ってきてたよな。

あっという間に攻防が始まって、確かめる術をなくしていたが。

「これは園芸部の畑で取れた、イチジクのパイだよ」

新令月が、そう答えた。

こ、今度はイチジク…?

「さっき、ツキナと三人で家庭科室で作ったんだよ。三人で食べたけど、予想以上に大きくてお腹いっぱいになったから、余りを学院長せんせーに持ってきたんだ」

…。

…何だろう。既知感。

さっきも聞いた台詞だな。

すると、旧すぐりが目を釣り上げた。

「適当なこと言わないでくれる?園芸部に、イチジクなんて植えてないよ」

…え?そうなの?

「園芸部の畑に植えてる植物くらい、ちゃんと把握してから来るんだったね」

と、旧すぐりは不愉快全開で言った。

…そう聞くと。

旧令月と旧すぐりの方が、本物なんじゃないかという気がしてくる。

言い争いが拮抗していて、どちらを信じたら良いのか…。

「…何言ってんの?園芸部の畑を把握してないのは、そっちでしょ」

「同じ言葉を、そっくりそのまま返してあげるよ。このにわか園芸部」

「偽物の分際でこれ以上生意気言うなら、楽には死なせないよ?」

「それはこっちの台詞だね」

言い争いがヒートアップする、新旧すぐり。

そして。

「気持ち悪いね、自分と同じ顔した偽物って」

「そうだね。何より気持ち悪いのは、偽物の癖に、本物のフリをしてることだね」

「自分に向かって言ってるの?」

「しらばっくれるんだ?偽物の上に、見苦しく言い訳までするなんて…余計気持ち悪いね」

「そうかな?君よりマシだと思うよ」

新旧令月の方も、静かに怒りを燃やし合っている。

…やべぇよ。

同じ顔をした二人が、両者とも、まるで本物のようなことを言っていて。

疑い始めたら、どちらも偽物に見える。

そして同時に、どちらも本物に見える。

今この場にナジュがいてくれたら、と切実に思う。

多分、この醜い言い争いは一発で解決するだろうに。
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