神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…すると。

「ねぇ、羽久せんせー」

くるりと、旧すぐりがこちらを向いた。

「は、はい?」

「羽久せんせーは、俺が本物だって分かるよね?」

えっ。

そ、そう言われると…凄く困るのだが…。

「学院長せんせーも。自分の生徒なんだから、本物か偽物か分かるよね?」

「えっ…」

シルナも、俺と同じらしいな。

旧すぐりに詰め寄られて、視線をぐるぐる彷徨わせていた。

ごめんな、俺達。頼りない教師で。

悪いけど、俺達にはお前らの区別がつかないんだよ。

どうしたら良いんだ。

「い、いや…。そ、それはどうだろう…?その…かぼちゃケーキも美味しかったし…」

「何だよ、もう…。肝心なときに役に立たないなー」

「うぐっ」

…痛いところを突かれたよ。

そんなこと言われても、分からないものは分からないんだ。しょうがないだろ。

ケーキで区別が出来れば良かったんだけど。

「かぼちゃケーキなんて作ってない。イチジクのパイだよ」

「そうだよ。絶対こっちの方が美味しいからさー。ちょっと食べてみて」

「え、あ、むぐっ」

新令月と新すぐりが、持参したイチジクパイを、俺とシルナの口に押し込んだ。

おい、やめろ。

…いや待て。でも…。

…もぐもぐ…。

「…普通に美味いぞ」

「うん…。美味しいねー。かぼちゃケーキに加えて、イチジクパイまで食べられるなんて…幸せ」

一人、ぽわぽわと満足そうなシルナである。

おい。呑気にイチジクパイを堪能してる場合じゃないんだぞ。

すると。

「ちょっと。それ偽物の作ったお菓子だよ?騙されないでよ」

「僕達のかぼちゃケーキの方が美味しいよ」

旧すぐりと旧令月が、口を尖らせてそう言った。

う、うん…。確かに、かぼちゃケーキも美味しかったな。

でも、イチジクパイも美味しかったんだよ。

両者共に、甲乙つけ難い素晴らしい味。

ますます、どちらが本物なのか分からない。

「両方美味しかったから…両方本物ってことで良いんじゃないかな…?」

シルナなんか、判別することを諦めてこんなことを言ってるし。

でも、正直その気持ちは分かる。

あまりにも、二人共そっくりで。区別出来なくて。

両方本物で、さもなければ両方偽物だろうと思ってしまう。
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