神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「…全く、自分の生徒が本物かどうかなも分からないなんて…。見損なったよ」

旧すぐりが、ジトッと俺達を睨んだ。

返す言葉もない。

それは申し訳ないと思ってるよ。

「それなら仕方がない。…じゃあ、こんな方法で白黒はっきりさせるのはどうかな」

と、旧令月が言った。

ど、どんな方法だ?

「僕達はお互いに、目の前にいるのが自分の偽物だと思ってる。そうだよね?」

「…そうだね」

「でも、今隣にいる相棒は、どうだろう?」

「…」

…何?

「偽物かもしれないよね。君の隣にいる君の相棒は、本当に本物なの?」

「…それは…」

新令月と新すぐりは、お互いに顔を見合わせた。

「僕にも分からないよ。何せ、学院長達でさえ区別がつかないほどなんだから」

旧令月が言った。

た、確かに…。それは…そうかもしれない。

今隣にいる令月が、本物の令月なのか。

今隣にいるすぐりが、本物のすぐりなのか。

もしかしたら、ドッペルゲンガーがすり替わっているのかもしれない。

それは誰にも分からない。入れ替わっている本人にしか。

「僕達が本物か偽物か、お互い、相棒に決めてもらおうよ。選ばれなかった方は、偽物として消える。それではっきりさせよう」

…そんな…。

「そんなやり方で…もし…間違えたらどうするんだよ?」

俺は、口を挟まずにはいられなかった。

二分の一なんだぞ。本物を当てる可能性は。

そんな方法で選んで、もし間違えたらどうするんだ。

…しかし。

「…いーじゃん。シンプルで、面白い」

新すぐりは、旧令月の提案に乗り気だった。

「…そーだね。お互い相棒が決めることなら、文句はないね」

旧すぐりもまた、この提案に賛成。

ほ…本当に、そんな決め方で良いのか?

もし間違えるようなことがあったら、取り返しが…。

「別に大丈夫だよ、羽久」

俺の心配を見抜いたように、旧令月が言った。

「もし間違えられたとしたら、潔く消えるよ。文句はない」

「…お前…」

…自分の…一生を決めることかもしれないんだぞ。

そんな大事なことを、相棒に委ねて良いのか?

…いや、だからこそか。

お互いに自分の相棒が、自分の本物を見抜いてくれると信じて…。

「じゃあ、せーので当てよっか。せーの…」

「さよなら、偽物」




…それは。

実に、一瞬の出来事だった。




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