神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
一階に降りると、私と謎の女の人は、リビングルームらしき広い部屋に行った。

…豪華な家だ…。

屋根もあるし、絨毯も敷いてあるし。家具もたくさんある。

何より、家の中が清潔だ。

雨漏りもしないし、隙間風に悩まされることもないんだろうな。

収容所を出て当分経つのに、未だに綺麗な建物を見ると、凄いなぁとおもっ…。

…収容所?

…って、何?

すると。

「パパ、ママ。ベリーシュ起こしてきたよ」

私と同じ制服を着た女の人が、リビングルームにいた二人の大人に向かってそう言った。

…パパとママ?

確か、親の呼び名だよね。お父さんとお母さんのこと。

パパがお母さんだっけ?ママがお父さん?

それとも、逆だったかな。

前、誰かが持ってきてくれた絵本に書いてあったはず。

ハイカラな家は、両親のことをカタカナで呼ぶんだなぁと思った。

あの絵本を持ってきてくれたのは、誰だったか…。

…いや、それよりも。

この人、私のことを呼んだ?

今、ベリーシュって言ったよね?

…誰?

それと、この…パパとママって呼ばれた人も、誰?

全然、見覚えがない。

初対面…初対面、だよね?

私はそう思ったけど、しかし。

「随分遅かったな。寝過ごしたか?」

「朝ご飯、ゆっくり食べる時間がないじゃない。全くもう…」

パパとママが、それぞれそう言った。

…どっちがパパで、どっちがママなのか分からないけど…。

お父さんがパパで、お母さんがママ?

区別がつかないから、分かりやすくお父さんとお母さんって呼ぼう。

「もっと早く起きなきゃ駄目よ。シファに起こしてもらうんじゃなくて、自分で起きなきゃ」

お母さんの方がそう言った。

…シファ?

シファっていうのは、人の名前?

さっき私を起こしてくれた、私と同じ制服を着ているこの女の人は、シファちゃんって名前なの?

…名前を聞いても、誰なのか思い出せない…。

「心配しなくても…この時間なら、駅まで走ればまだ間に合うだろ」

お父さんは、あっけらかんとしてそう言った。

「もう。パパったら甘いんだから」

そんなお父さんに、お母さんは呆れたように肩をすくめた。

パパったら…?

っていうことは、お父さんの方がパパなんだ。

で、お母さんがママ。

成程、区別するのが大変そうだね。ごっちゃになりそうだ。
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