神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
見覚えのない校舎。見覚えのない教室。見覚えのない席。

見覚えのないクラスメイトと、見覚えのない先生達。

何もかも、私は覚えていない。

そして、今私の目の前にある、一枚のプリント。

これが、今朝校舎に入る前、シファちゃんの言っていた小テストというものらしい。

何だか、数字とかアルファベットとか、意味の分からない図形みたいなものが並んでて。

試験と言うより、暗号の解読を迫られているみたい。

当然だけど、私にはさっぱり分からなかった。

古代文字にか見えないや。

こんなの解ける人いるのかな、と思ったが。

クラスメイトは皆、カリカリと鉛筆を動かしていたから。皆は古代文字が分かるんだろう。

凄いなぁ。

ってことはこの科目は、きっと古代文字を学ぶんだろう。

聞いたことないなぁ。そんな科目。

私が知ってる学校の科目って言ったら、国語とか算数とか、給食とか…。

あとは、炎とか水とか…。

…ん?炎?水?

それって、何を学ぶ科目なんだっけ…。

テストもよく分からないけど、私が今置かれている状況はもっと意味が分からない。

私は何で、記憶をなくしてるんだろう?

何かあったんだろうか?頭を打ったとか…?

私は、頭をぽんぽんと叩いてみた。

頭を打ったにしては…何処も痛くない。

じゃあ、やっぱりこれは夢?

むに、とほっぺたをつねってみるけど、ちゃんと痛かった。

…夢じゃないんだ。ってことはこれは現実?

じゃあ、私がさっきからちょくちょく思い出してる記憶は何?

一体いつのもの?誰のものなの?

…それから、もう一つ気になるのは…私の名前。

シファちゃんも、パパもママも。

私のこと、ベリーシュって呼んだよね。あれは私を呼んでたんだよね?

…ベリーシュって、誰?

私、そんな名前だったっけ?

自分の名前も思い出せないや。

そんな名前だったような、ちょっと違ったような…。

…よく思い出せないけど…それを言うなら、あの家族は誰だったんだろう。

シファちゃんにとってのパパとママ…。私にとっても、あのリビングにいた二人は両親なんだろうか。

自分の両親の顔なんて、最初から覚えてないけど…あんな人だったっけ…?

そもそも、あのシファちゃんは何者なんだろう。

同じ家の、同じ部屋に住んでたけど…。お友達?

お友達と一緒に住むなんてこと、あるのかなぁ。

私の姉妹?

でも、同じクラスにいるんだよね。

姉妹で同じクラスになることって、あるのかな。

もしかして、私留年とかしたんだろうか。

私ならやりかねない。古代文字、全然分からないし。

それで同じクラスなんだろうか?私が留年したから?

でも…姉妹にしては、あんまり似てなかったような…。

あんなものなのかな?姉妹…。

…私に、姉妹なんていたっけ…?

…謎は深まるばかりである。
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