神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…不気味って、何が不気味なんだ?

シルナのパジャマか?あれは確かに不気味だったな。

しかし、生徒の関心事は、シルナの寝間着なんかではなかった。

「イーニシュフェルト魔導学院は、そういうのはないって思ってたのに…」

「そんなの分かんないよ。だって、イーニシュフェルト魔導学院は、凄く歴史が長いんだよ?」

「だよね。歴史が長かったら、色んなことがあるよね…」

…何の話だろう。

学院の話をしているようだが。

…色んなことって何だ?

そりゃ確かに、学院が創立されて以来、学院の内外を含めて様々な出来事があったものだが…。

生徒が関心を寄せるようなことって、何かあっただろうか。

「じゃあ、やっぱりもしかして…昔学院で死んだ生徒の…ってこと?」

「そうかも」

おい。本当に何の話だ。

思わず、昼食のサンドイッチを噴き出しそうになった。

学院で死んだ生徒って、誰のことだ。

いないぞ?そんなの。

悪いと思いながら、俺は耳をそばだてて、生徒達の会話を聞いた。

ここからは、言い訳の余地のない盗み聞きである。

「何で今、いきなり出てきてんだろう…?」

「さぁ、分かんない…。何か言いたいことがあって出てきたんじゃないかな」

出てきたって、何が?

「怖いよね…。夜中に目が覚めたらどうしよう」

「夜かどうかなんて関係ないよ。昼間でも見た人がいるって、聞いたことある」

「えぇ?昼間なのに出るの?一体何処で?」

「私が聞いたのは、第二稽古場で見た人がいるって…」

第二稽古場?

そこに、何が出るって言うんだ?

「そんな…。放課後、稽古場に行こうと思ってたのに…。怖くてもう行けないよ」

「だよね。私も、第二稽古場には行かないようにしてるの」

「でも、噂だと、図書室にも出るんでしょ?」

「知ってる。あれ聞いてから、図書室にも行かないようにしてるよ…」

「私も。何だか色んな場所で目撃情報があるから、迂闊に校舎内を歩けないよね」

マジで、何の話なんだ。

第二稽古場?図書室?そこに何が出るって?

俺は振り返って、二人の生徒に問い詰めたい衝動に駆られた。

しかし、ここで生徒の会話に割って入ったら、盗み聞きしてたのがバレるし…。

「人の多いところなら、大丈夫なんじゃない?食堂とか…」

食堂?ここじゃないか。

俺は、周囲をぐるりと見渡してみた。

…怪しいものは、何もないが。

「さぁ…。分かんないよ、幽霊が何処に出てくるかなんて…」

生徒がそう口にして、俺は再びサンドイッチを噴き出しそうになった。

今、何て言った?

幽霊…だって?
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