神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「ごめんね、本当…。毎回毎回…」

会議室にやって来たシルナ・エインリーは、まず最初にそう言って謝罪した。

はっ。今更だな。

「そんな、気にしないでください。学院長先生…。困ったときはお互い様じゃないですか」

シュニィが、微笑みながら言った。

俺達はしょっちゅうイーニシュフェルト魔導学院を助けてるが。

同じくらい、学院の連中に助けられてもいるからな。

シュニィの言う通り、お互い様って奴だ。

今までも散々助けてきたし、散々助けられてきたんだから。今更だろうがよ。

細かいことは気にせず、さっさと話し合おうぜ。

『オオカミと七匹の子ヤギ』、だったか?

「まさか、あの白雪姫の他にも魔法道具があったとは…」

「うん…。童話シリーズは、まだ他にも色々あって…」

「童話シリーズだってよ。メルヘンだよなー」

エリュティア、シルナ、キュレムが順番に言った。

…あまり良い思い出がないからな。あの白雪姫。

酷い目に遭わされたよ、俺は。

あれのお陰で未だに、「ジュリス隊長、ベリクリーデ隊長と結婚したって本当ですか」と、しょっちゅう隊員に聞かれるようになった。

ちげーよ。

確かに結婚式はしたけど、しかし結婚はしてない。

ってか、何処から噂が漏れたんだよ。

隠してたはずなのに。地獄耳め。

「それで…。今回は、学院の皆さんのドッペルゲンガーが現れたということですが…」

と、クュルナが聞いた。

「うん、クュルナちゃん…。『オオカミと七匹の子ヤギ』は、子ヤギのフリをしたオオカミが、子ヤギを食べる…つまり、本人に成り代わることを目的にしてるんだ」

「何だか…物騒な童話ですね…」

子供が泣くよな。

「それは何ですか?憎い敵に送りつける、嫌がらせ用の魔法道具ですか?」

「ううん。『白雪姫と七人の小人』と同じく、子供向けの玩具…」

「…イーニシュフェルトの里の子供って、マゾなんですか?」

そう言いたくなる気持ちは分かるぞ、ルイーシュ。

本当に子供の玩具か?って思うほど、殺傷能力に溢れている。

下手したら死ぬんだろ?玩具の癖に。

で、似たような魔法道具が、他にもうようよ存在している、と…。

全く、嫌なものを作り出したもんだ。
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