神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…ベリクリーデは、ありったけ渋柿を取ってきたらしく。

全部を干し終えるには、かなりの時間がかかった。

冷静に考えると、一体俺は何をやってるんだ?

まさかルーデュニア聖王国の民も、聖魔騎士団魔導部隊の大隊長が、干し柿作りに夢中になっているとは思ってないだろうな。

国民の皆様に申し訳なくなってくる。

言っとくけど、俺のせいじゃないからな。俺が言い出した訳じゃない。

全部、言いだしっぺのベリクリーデのせいだから。

俺を責めないでくれよ。

…ともかく。

「よし、出来たぞ」

「わー。凄い。柿のカーテンみたいだ」

柿のカーテン…確かにな。

風物詩って感じがするよ。今時、家で干し柿作る人はあんまりいないと思うけど。

「あとはこれを、風通しの良い場所に干して…」

「一晩経ったら出来上がり?」

だから、一夜干しじゃねぇんだよ。

柿の一夜干し…それはそれで美味しそうな気はするが、干し柿ってそういうものじゃないから。

「一晩で出来るかよ。一週間経ったら一度家に入れて…。外の気温と天気にもよるが、二、三週間はかかるな」

「えー。長いんだね」

そういうもんだ。しっかり乾燥させないといけないからな。

その分、出来上がった干し柿はなかなか美味いもんだよ。

「じゃあ、食べられるのはまだまだ先かぁ…。残念だな〜…」

「…」

「…もう、このまま食べても良い?」

食べても良いけど、渋いぞ。それでも良いならどうぞ。

それに、どちらにしても。

「お前は、干し柿は食べられないよ」

「?何で?」

「その前に、お前はここで死ぬからだ」

…そう告げるなり。

俺はベリクリーデを床に引き倒して、喉元にナイフを這わせた。
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