神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
謎の幽霊騒ぎについて口にしていたのは、その二人だけではなかった。

教室の中や、廊下を歩きながら、耳をそばだてていると。

「幽霊」とか、「出る」とか、「昔死んだ生徒」とか、なんとも不穏なワードが聞こえてきた。

皆、一体何の話をしてるんだ。

以前もイーニシュフェルト魔導学院では、学院の七不思議と称して、ちょっとした騒ぎが起き。

俺とシルナで、七不思議の真偽を確かめたものだが。

結局、何事もなかった。

あれは多分、ちょっとした刺激を求めて、生徒の誰かが流した噂の延長に過ぎなかったのだと思う。

じゃあ、今回もそうなのではないか?

単なる噂、面白がって本気にしてるだけなんじゃないか。

そう思ったが、しかし今回の件は、あのときとは明らかに違っていた。

噂ではなく、実際に「見た」生徒がいると言うのだ。

しかも、目撃した場所(?)も、人によって違うらしい。

昼休みに生徒達が話していたように、第二稽古場だったり、図書室だったり。

他にも、実習室だったり、校舎裏の花壇だったり、講堂だったり。

とにかく、様々な場所で目撃情報が寄せられている…らしい。

俺も生徒の話を盗み聞きするだけで、実際に聞いた訳じゃないから、定かではないが…。

本当なのか?本当に、そんな…。

幽霊…なんてものが、学院の中に出没しているのか?

学院が創立されて以来、俺はずっとこの学院にいるが。

幽霊なんて、見たこともない。

それと、生徒はあれこれ噂しているようだが…この学院の中で死んだ生徒なんていない。

一体何の、誰の幽霊を見たと言ってるのか知らないが。

それは決して、学院内で死んだ生徒の幽霊、などではないぞ。

だっていないんだもん。学院内で死んだ生徒。

幽霊が出てきているなら、一体何の幽霊なのか気になるところである。

…と言うか。

生徒が話してる幽霊騒ぎ。あれは、本当のことなのか…?

内心首を傾げていた、その矢先。




放課後の学院長室に、天音が、とある冊子を持ってやって来た。


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