神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…さてと。

種明かしはもう充分だ。

これ以上、ベリクリーデの偽物に付き合ってやる気はない。

偽物は、早いところ消えてもらおうか。

…だが、その前に。

「本物のベリクリーデを何処にやった?」

朝から、一度も本物のベリクリーデの姿を見ていない。

お前が、何処かに隠したんだろう?

本物に成り代わる為に、本物を隠したんだ。

本物を返してもらわないことには、まだ消えてもらっちゃ困る。

「…さぁね、何処だと思う?」

挑戦的な眼差しで、こちらを見上げるベリクリーデ。

…話したくない、か?

「…別に良いぞ。話したくないなら…話したくなるようにしてやるだけだ」

鋭いナイフの切っ先が、ドッペルゲンガーベリクリーデの首の皮膚を切った。

プツプツと、赤い血が滲んだ。

へぇ。ドッペルゲンガーでも、血は赤いんだな。

それは初めて知ったよ。

「…言っておくが、俺はお前に手加減はしないぞ」

お前は偽物だ。本物のベリクリーデじやない。

気を遣う必要は一切ない。

俺は過激なことはしない、とたかを括ってるのかもしれないが…。

尋問や拷問の術は、一通り知ってるからな。

長いこと生きてたら、こんな下らないことでも得意になるものだ。

「俺はお前に容赦をしない…。散々苦しめて殺してやる。ベリクリーデの居場所を吐くまでな」

「…無駄だよ。私は人間じゃない。ドッペルゲンガーなんだ。拷問くらいじゃ口を割ったりしない」

「そうか。だが…決めるのは俺だ」

拷問に効果があろうと、なかろうと、それはお前には関係のないことだ。

拷問して情報を吐くなら、それで良い。

吐かないつもりなら、それもまた別に良い。

「…いずれにしてもお前は死ぬ。…俺が殺す」

ドッペルゲンガーには、消えてもらわなければならないのだ。

いずれにしても死ぬなら、俺の手で殺してやる。

他の人間に、手を汚させる気はない。

「…憐れだね、ジュリス」

ドッペルゲンガーベリクリーデは、せせら笑うように言った。

「私を殺したって、本物は戻ってこないよ」

「…何だと?」

「教えてあげるよ。本物の私が何処にいるのか…。どうせ、誰も探しには行けない。助けることも出来ないんだから」

…。

「…言えよ」

「…彼女はね、時空の狭間…断絶空間にいるんだよ」

…成程。

…この偽物野郎が、これほど自信満々な訳だ。

とんでもないところに、ベリクリーデを隠したもんだ。
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