神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
断絶空間…か。

確かに…助けに行くのは、大変そうだな。

…だが。

それは、お前の知ったことじゃない。

「オリジナルのベリクリーデは、もう戻ってこられないよ。オリジナルがいないのなら、私がオリジナルだ。私が、本物のベリクリーデになるんだよ」

「…」

「私を殺したら、ベリクリーデはこの世から消える。だから、君は私を殺せない…」

「…馬鹿言うんじゃねぇよ」

偽物の分際で、随分偉そうにべらべら喋るじゃないか。

…虫酸が走る。

「偽物は偽物だ。逆立ちしようが、本物を消そうが、お前は偽物でしかない」

「…じゃあ、どうするの?」

「変わらない。お前は殺す。…俺の前から消えろ。永遠に」

これ以上、偽物の薄ら笑いを見ていたら吐き気がする。

俺は、再びナイフを持つ手に力を込めた。

「ふーん…。殺すんだ。これでベリクリーデは消えたね」

「必ず助け出す」

「君には無理だよ」

言ってろ。

今から死ぬお前には、関係のないことだ。

だが、消える前に…もう一つ、聞いて置かなければならないことがある。

「…ベリクリーデを断絶空間に送ったのは、誰だ?」

どうやって、あんなところにベリクリーデを送り込んだ?

玩具の魔法道具が作り出したドッペルゲンガーごときじゃ、断絶空間に手を出すことは出来ないはず。

誰かがいるのだ。

ベリクリーデを断絶空間に送り込んだ、こいつに協力した誰かが。

恐らくは、その誰かが…『オオカミと七匹の子ヤギ』の封印を解き、この世に放ったのだ。

俺達に悪意を持つ誰かが。

その誰かの正体を知らないことには…潰しても潰しても、何度も現れるだろう。

…しかし。

ドッペルゲンガーベリクリーデは、悪魔のような笑みを浮かべた。

「…教えてあげない」

「…」

「精々、頑張って考えるんだね…。…大事なベリクリーデちゃんを、君は本当に助けられるのかな?」

ドッペルゲンガーベリクリーデが、そう言うなり。

俺は、躊躇わずにナイフを突き立てた。

話す気がないなら、これ以上の問答は無意味だ。

ドッペルゲンガーの癖に、妙に生々しい手応えを感じた。

しかし、所詮はドッペルゲンガー。

シルナ・エインリー達の報告の通り。

最期は呆気なく、まるで霧が霧散するかのように、消えてしまった。
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