神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
毎日シファちゃんが私を起こしてくれて、一緒に支度して、一緒に学校に行っていたんだけど。

その日の朝、シファちゃんは、いつもよりやけに早く準備を済ませていた。

…?

…いつもと同じ時間なのに、今日は早いんだな、シファちゃん…。

するとシファちゃんは、私がまだ着替えないうちに、学生カバンを手に取った。

「…?シファちゃん、もう行くの?」

「うん。今日日直だから。早く行かないと」

…にっちょく?

って、何だろう…。

とにかく、早く行かなきゃならない事情があるらしい。

…えっ。ってことは。

「私は一人で行くの?」

「?そうなるね」

何を当たり前のことを、と言わんばかり。

「…」

…わー…。

…私、一人で学校…行けるかな?

これまで毎日、シファちゃんにくっついて学校に行ってたけど。

自分一人で行ったことはない。

正直、学校までの道のりを、完璧に覚えているとは言い難い。

道がね、ぐねぐねしてて、列車に乗ったりして、よく分からないの。

駅までの道のりは覚えてる…と思うけど、問題は列車だな…。

一人で行けるかな…?

下手したら、街の中で迷子になりそう…。

…うん、そうなったら仕方ないな。

「じゃ、私先に行くから」

「うん…。気をつけてね」

「ベリーシュもね」

シファちゃんは学生カバンを手に、すたすたと一人で玄関に向かった。

…さて、私はどうしよう。

とりあえず、いつもの黒い制服に着替えるとしよう。

…この服、毎日着てるけど…未だに慣れないな。

何で黒なんだろう…。魔女みたいだから、やっぱり白が良いなぁ…。

白…白い制服…。私は一体、何処で白い制服を着てたんだったか…。

…それに。

「…あの人…」

夢の中にいた、あの人。

あの人のことが、どうにも頭に引っ掛かっている。

私に向かって、手を差し伸べてくれた人。

温かい感じがした。優しい感じがした。

あれは、誰だったんだろう。

私にとって、どういう関係の人?

…思い出せない。

思い出せないことに、罪悪感を感じる。

私はあの人のことを、決して忘れてはいけないのだ。

きっと私にとって、とても大事な人なんだろう…。
< 176 / 634 >

この作品をシェア

pagetop