神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「聞いたよ。学校来ずに、家出してたって」

と、シファちゃんが言った。

…私、やっぱり家出したことになってるんだ。

家出をしたつもりはない。単なる探しもの。人探しだ。

「一体、何でいきなり家出なんてしたの?」

「…」

今ここにいる私は、本当の私じゃないから。

記憶喪失の私だから。

失った記憶を探して、私を助けようとしてくれている人を探して、ひたすらがむしゃらに走ってたの。

…って言って、シファちゃんは信じてくれるだろうか?

…無理な気がする。

信じてくれたところで…シファちゃんが何かを知っている訳ではない。

「…」

結局、何も答えられずに黙っていると。

シファちゃんは、そんな私をじっと見つめ。

「…なんか、ベリーシュ…最近おかしいよね」

と言った。

おかしい…?

うん、私も自分がおかしいと思ってる。

シファちゃんよりパパよりママより、誰よりも自分が一番、自分をおかしいと思ってるよ。

「テストはことごとく0点だし。授業中も上の空だし。朝だって自分から起きないしさぁ。挙句の果てに家出するなんて…」

「…うん…」

家出…ではないけどね。

「一体どうしちゃったの?何か悩み事?」

そうだね。

悩み事なら、いっぱいあるよ。

果たしてこの悩み事は、誰かに相談して解決するものなの?

「…」

やっぱり何も答えずにいると、シファちゃんは困ったような顔で溜め息をついた。

…そして。

シファちゃんは、私の右手を指差した。

「それにさ、…その指輪」

…。

…え?

「最近ずっとつけてるけど…。どうしたの?それ」

…シファちゃんに言われて、初めて。

私は、自分の右の手のひらを見つめた。

私の右手。の、中指に。

銀色の光沢を放つ、美しい指輪が嵌められていた。

ドキン、と心臓が跳ねた。

…これ、って…。

「ずっと気になってたんだよ。いつそんなもの買ったの?前は、アクセサリーなんてつけなかったじゃん。…本当、どうしちゃったの?」



…外れていた、ジグソーパズルのピースが。


カチリと音を立てて、嵌った気がした。



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