神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
そんな場所に送られたベリクリーデを助け出すのは、容易なことではない。

十人の魔導師に聞けば、恐らく十人共口を揃えて、「そんなことは不可能だ」と言うだろう。

実際、ルイーシュも同意見だった。

俺もそう思う。

断絶空間に閉じ込められた人間を救おうなど、無謀にも程がある。

普通に考えれば、無理だ。

…じゃあ、普通に考えなきゃ良いだけの話だろう?

断絶空間の入り口を開けることは出来ない。

それはすなわち、鍵をなくした金庫の扉を開けようとしているのと同じことだ。

しかも、鍵をなくしただけではなく…金庫のダイヤルは錆び付き、外部からの操作を一切受け付けない状態。

でも…全く手段がない訳じゃない。

金庫の鍵が壊れていて、開かないなら。

手段は一つだけ。

金庫の鍵を、扉ごと…ぶち壊してやれば良いのだ。

な?シンプルだろう?

いかに断絶空間と言えど…。力ずくで殴り込まれたら、穴も開くというものだ。

その穴から、ベリクリーデをひっぱり出してやれば良い。

非常に分かりやすい手段だが…しかし、これは簡単なことではない。

さっき言ったよな、ルイーシュが。

死ぬ、って。

そう。この手段で断絶空間に手を出そうとしたら、多分俺は死ぬ。

金庫の蓋を開けるには、渾身の力で金庫を叩きつけなければならない。

生身の人間が、道具も使わずに、金属製の金庫を壊そうとしたら。

大抵の人間は、途方に暮れるんじゃないか?

まぁ、普通に考えりゃ無理だよな。

でも俺は、普通じゃないから。

魔導師だから。

多少の無理は、魔法の力で押し通してみせる。

無理を通せば、それが道理になる、ってな。

…だが。

「…あなたにしては、見通しが甘いのでは?」

…さすがルイーシュだな。

俺だって、現実は気合だけで乗り切れるほど、甘くないことは分かってるよ。

「あなたが全力で魔力を叩き込む…程度で、断絶空間に穴を開けることは出来ませんよ」

「…知ってるよ」

断絶空間に届く前に、俺の魔力が尽きて死ぬだろうな。

そんな死に方は、御免被りたい。

…でも、俺だって無策で挑むつもりはない。

「…心配するな。ちゃんと考えがある」

「…ちゃんと、現実的な考えなんだろうな?」

「当たり前だろ?」

俺だって…充分長生きしてるとはいえ…こんなところで死にたくはないよ。

…出来れば、な。
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