神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「ただ、問題は…ベリクリーデのいる断絶空間が、この世界からかなり遠いってことだ」

これだけ離れてちゃ、魔力を叩き込もうにも届かない。

「だから、ルイーシュ…。お前の空間魔法で、無理矢理断絶空間を、この世界まで『持ってきて』くれないか」

こんな芸当は、並みの魔導師には出来ない。

空間魔法専門の、優れた魔導師でもなければ。

俺がキュレムとルイーシュに声をかけたのは、それが理由だ。

「…そりゃ、やろうと思えば出来ますけど…」

と、ルイーシュは渋々といった顔で答えた。

やろうと思って出来るんだから凄いよ、お前は。

「でも、ベリクリーデさんがいる断絶空間の場所、分かってるんですか?『持ってくる』にしても、場所が分かってないことには…」

「場所なら分かってるよ」

俺は、首に下げていたシルバーのチェーンを握り締めた。

そのチェーンには、『白雪姫と七人の小人』事件で、不本意ながらベリクリーデと結婚式を挙げたとき。

小道具として使った、結婚指輪が下げられていた。

指には嵌めてないけど、ペンダントとして首につけてた。

「それ…。ベリクリーデとのイチャイチャリングか。それをどうするんだ?」

と、キュレム。

何を言い出すんだお前は。

「イチャイチャリングじゃねぇよ。実は、これにはな…少しだけ、魔力を込めてあるんだ」

例えるなら、GPS発信機みたいなものだ。

俺の指輪とベリクリーデの指輪両方に、少しだけ魔力を込めておいた。

これで、指輪に込められた俺の魔力を辿れば…ベリクリーデが何処にいるのか分かる、といった寸法だ。

こんなこともあろうと、念の為に準備しておいたことが、まさか本当に役に立つとはな。

人生、何でも備えあれば憂いなしだな。

生き神様事件のとき、ベリクリーデの行方が分からなくなって苦労したから…。

二度とあんなことがないように、ほんの少し知恵を巡らせた結果だ。

「成程、それでベリクリーデの居場所を辿れる訳か…」

「あまりに離れ過ぎてると、感知出来ないがな。…一応、指輪が共鳴する位置にいるようだ」

指輪の魔力が感知出来る、ぎりぎりの場所にいる。

危なかったな。

これ以上離れられると、指輪で辿ることも出来なかっただろう。

「これで、ベリクリーデの居場所は分かる…。ルイーシュ。あとはお前が…」

「あー、はいはい。分かりましたよ」

ルイーシュは、溜め息をつきてそう言った。

「犬死にするつもりじゃないんなら、手を貸してあげます」

杖を取り出したルイーシュは、得意の空間魔法を発動した。

「…tangetn enterspaci」

…。

…これで、準備は整った。
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