神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
丁度良い。ナジュにも聞いてみようか。

「ナジュ君!ガトーショコラは如何?」

来客と見るや、すかさずチョコレートを勧めるシルナである。

目が輝いてるぞ。

「良いですね〜。もらいます」

「だよね!はいどうぞ〜」

良かったな。拒否されなくて。

イレースは、なんとも渋い顔で睨んでいたが。

それは見えなかったことにするらしい。

もぐもぐと、ガトーショコラを食べているナジュに。

「お前、聞いたか?生徒の間で流行ってる噂」

と、尋ねてみた。

「噂?あー…幽霊がどうの、っていう奴ですか」

知ってたのか。

「いや、生徒の心の中を覗いたら、幽霊が云々と考えている人が多くて」

成程。悪癖の読心魔法で、情報を得ていたらしい。

「悪癖とは失礼な…。ところで、羽久さんが持ってるそれって…」

「あぁ。さっき新聞部が配ってた号外。天音が持ってきたんだよ」

「やっぱり?通りすがる生徒が、軒並み幽霊幽霊って考えてるから、本物の幽霊でも見えたのかと思った」

…。

…ナジュは、意外とあっけらかんとしてるんだな。

「どう思う?本当に、学院の中に幽霊がいると思うか?」

「さぁ、どうなんでしょうね?いたら面白いとは思いますけど」

面白くはねーだろ。

襲われたらどうするんだ?

「僕にしてみれば、死んだ人間なんか怖くないですね。殺しても死なない人間の方が、余程ホラーですよ」

確かに。説得力が違うな。

そう言われると、途端に幽霊が怖くなくなってきた。

まぁ、俺も信じてる訳じゃないからな…。

だって、俺だってそこそこ長生きしてるけど。

生涯の中で、幽霊なんて見たことないし。

見たことがないものを、存在しているとは言い切れない。

イレースほど厳格に、自分の目で見たものしか信じない、とまでは言わないけど…。

少なくとも、イーニシュフェルト魔導学院にはいないと思う。

「でも、生徒達は本当だと思ってるんですよ」

と、ナジュが言った。

…そうなんだよな。

俺達が信じていようと、信じていまいと。

生徒は信じているのだ。それが問題だろう。

「まぁ、噂を真に受ける年齢でもあるからね」

幽霊なんて不確定な存在を、ついつい信じてしまう年頃でもあるな。

「信じるのは勝手ですけど、そのせいで、僕が暇になっちゃったんですよね」

と、ナジュは言った。

…は?
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