神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
イレースは、用事を済ませるなり、さっさと退室しようとしたか。

俺は、それを引き留めた。

折角全員揃ったことだし、改めて話し合っておこうと思ったのだ。

「先日の…『オオカミと七匹の子ヤギ』の件だが…」

「あぁ、羽久だけどっぺるげんがーが出なかったんだよね。ここにいる皆出たのに、羽久だけ出なかった」

「そーそー。皆自分のどっぺるげんがーを退治したのにね〜。羽久せんせーだけ何もしてないよね。何でだろーね?」

…あのさ。

引き留めておいてアレだけど、ちょっとこの、元暗殺者組…窓から放り出して良いか?

地味に心を抉ってくるの、やめろ。

俺だって、ちょっと気にしてるんだからな。

仕方ないだろ。誰にドッペルゲンガーが出るのか、こちらから依頼出来る訳じゃない。

…しかし、何で俺だけ出なかったんだろうな?

「あれじゃないですか。羽久さんは、以前レーヴァテインが出てましたし。ドッペルゲンガー側も、二度も三度もそっくりさんを見せるのは気の毒だと思って、配慮してくれたのでは?」

と、ナジュ。

何だそりゃ。

そういう配慮は要らない。

「それより、今回の童話シリーズ…」

「羽久、チョコカステラおかわりあげる!」

きらきらと目を輝かせながら、チョコカステラを勧めるシルナ。

「…」

…あのさ。

自分から始めておいてアレだけど、やっぱり解散して良いかな?

まともに話を聞く気がある奴、多分イレースと天音しかいない。

「心外ですね。僕も含めてくださいよ」

「うるせぇ」

お前は話を聞く気があるんじゃなく、心を読む気があるだけだろ。

「…私、もう帰っても良いですか」

「ちょっと待てイレース。早まるな」

「このド腐れ学院長の、頭の中に詰まった砂糖を捨ててきてください。話はそれからです」

俺もそう出来たら良いと思うんだけど、でも出来ないんだよ。

出来るなら、とっくにやってるっての。

「ま、まぁまぁ…。こんなゆったり出来るのも、『オオカミと七匹の子ヤギ』の件が解決したからだよ。良いことだと思おうよ」

と、ポジティブ思考の天音である。

天音だけが、このメンバーの唯一の良心であり、清涼剤だな。

天音がいなかったら、どうなってたことか。

パーティ崩壊だよ、今頃。
< 225 / 634 >

この作品をシェア

pagetop