神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
読みたくないけど、仕方ない。

俺はシルナと共に、人魚姫が書いたラブレターを読んだ。 

メルヘンな人魚姫のことだ。

手紙に何を書いているか、大体想像はついていたけど…。

しかし実際に読んでみると、想像を遥かに越えていた。

歯が浮いて、口の中がパッサパサになりそうな内容だった。

つらつらと、いやに長ったらしく書かれているけど。

要約すると、

「私ははあなたに一目惚れしました。あなたの声、顔、全てが愛おしくて堪りません」的な内容。

こう書くとそうでもないけど、実際はもっと歯の浮く台詞で書かれているから、めちゃくちゃ気持ち悪い。

いつの時代のラブレターだよ。

例えは良くないけども、狂信的なアイドルオタクの、気色悪いファンレターみたいな。

一般人が見たら、ドン引きする類の手紙だな。

俺も気持ち悪いから、思わず手紙を破り捨てたくなったよ。

紙が勿体ないから、さすがに破らないけどな。

「どう思われます?」

目をキラキラさせて、人魚姫が聞いてきた。

…正直に言って良いだろうか?

「めちゃくちゃ気持ち悪い。夢と妄想が混じってて、頭弱いのかなって感じ。もっとマシな手紙をかけよ。いや、そもそも手紙なんか…」

「では、あとはこれを…アトラス様にお渡しするだけですわね!」

…話を聞けよ。

意見を求めてるんじゃなかったのか?

人に読ませておいた癖に、意見は聞かないのかよ。

自己満足か。

「やはり、お手紙は直接渡したいですわね」

「直接って…。無理だろ?アトラスだって、いつも隊舎にいる訳じゃ…」

「でも…やっぱり恥ずかしいですわ…」

相変わらず人魚姫は、俺の話を全く聞いておらず。

勝手に頬を染めて、勝手にもじもじしていた。

もう、そのまま勝手にしろよ。

もじもじすんな、気持ち悪い。

この手紙以上に恥ずかしいものが、お前にあるのか?

「やはり…ポストに投函することにしますわ。まずは、陰ながらあの方を愛している者がいるのだということを、アトラス様に知って欲しいんですの」

…あっそ。

好きにしろ。

アトラスに読んでもらえると良いがな。

聖魔騎士団に届くなり、不必要な郵便物だとして、そのまま捨てられる可能性もあるが。

それは、人魚姫には言わないでおいた。

どうせ、言うこと聞かないしな。
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