神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
訪ねていったは良いものの、シュニィが留守だっら困るな…と思っていたら。

まるで俺が来るのを待っていたかのように、シュニィは快く迎えてくれた。

「ようこそいらっしゃいました、羽久さん」

「…悪いな、シュニィ…。いきなり…」

「いいえ、良いんですよ…。それに…この間学院長先生といらっしゃったとき、何か言いたそうにしていましたから」

「…それは…」

…バレてたか。

そりゃバレるよな。シュニィ相手には。

「近いうちに、いらっしゃるのではないかと思っていました」

「…そうだな。シュニィ…お前に話がある」

「はい、何でしょうか」

シュニィは、穏やかな笑顔で微笑んだ。

この笑顔が、この後歪むことになるかもしれないと思うと。

申し訳なくて、やっぱり帰った方が良いのではないかと考えてしまう。

が、今更尻尾を巻いて帰るくらいなら、最初から来るなって話だ。

「…この間シルナと一緒に訪ねてきたとき、一緒にいた女を覚えてるか?」

「えぇ…。見慣れない方をお連れでしたよね。先日は、挨拶し損ねてしまいましたが…」

俺達が強引に帰ってしまったからな。

それに、仲良く挨拶するような相手ではない。

シュニィにとっては…恋敵、ってことになるんだよな。

まぁ、シュニィが負けるはずはないんだが。

それでも、シュニィにとって気持ちの良い相手じゃないよな。

自分の夫に言い寄る女なんて、妻にとっては、目障り以外の何者でもなかろう。

しかし、人魚姫の奴、もうラブレターを出したそうだし。

今更引っ込みはつかない。

「…あいつな、童話シリーズの三体目なんだ」

「…え?」

あぁ、言ってしまった。

「例の童話シリーズの…『人魚姫』だとさ」

「え…!に、人魚…ですか?あの方が…?」

「あぁ」

「その割には…普通に陸で生活していましたし、二本足で歩いてましたよね…?」

…全くだな。

人魚を名乗る癖に、人魚の要素が一つもない。

あいつ、本当に人魚か?

「『人魚姫』の試練は、どういったものなのですか?私達に協力出来ることがあるなら、何でも…」

…ありがとうな、シュニィ。

今回は、お前と…そして、お前の旦那の協力が不可欠だ。

「…『人魚姫』の目的は、恋愛成就だそうだ」

「…恋愛…。…まぁ、『人魚姫』は恋物語ですからね」

原作は確か、結構悲しいストーリーだよな。

だからこそあの『人魚姫』は、原作のような悲しいエンディングを回避し。

「いつまでも幸せに暮らしました」系の、ハッピーエンドを求めているのかもしれない。

残念ながら、それは叶わない夢なのだが。
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