神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「に…人魚姫さんからのプレゼント、ですか?」

「は?人魚?」

あ、そうか。

アトラスさんは、人魚姫さんのことはご存知ないんですよね。

出来ればそのまま、一生知らないままでいて欲しいものです。

「い、いえ、その…。どなたかから、プレゼントですか?」 

「そのようだ。送り主に覚えが無いんだが」

そうですよね。

まさか人魚姫からのプレゼントとも知らず。

「何…が、入ってたんですか?」

「これだ」

アトラスさんは、包装紙の中身を開け。

そこに入っていたものを、私に掲げて見せてくれた。

「…」

私はそれを見て、思わず黙り込んでしまった。

…マフラーである。

白と赤の毛糸で編んだ、ハート模様のマフラー。

…非常に、挑戦的なプレゼントと言わざるを得ませんね。

少なくとも、既婚者に贈るものではありません。

それ…もしかしなくても、人魚姫さんの手編みでしょうか?

多分そうですよね。

既製品についているようなタグも見当たりませんし…。

こんな短期間で、マフラーを編み上げたんですか?

マメな方ですね。人魚姫さんって。

でも、このようなプレゼントは遠慮して欲しいものです。

「珍しいだろう?こんなものが送られてくるなんて」

「…そうですね…」

思い人に渡すプレゼントとしては、定番中の定番ですね。

アトラスさんは、そのことに気づいてるんでしょうか?

このプレゼントで、自分に思いを寄せる女性がいるのだということに、気づ、

「そろそろ寒くなるからな、丁度良かった」

…気づいてなさそうですね。

あくまで、マフラーの実用性のみを重視しているようです。

さすがです、アトラスさん。

今ばかりは、あなたのその鈍感さに救われました。

…おまけに。

「ほら、シュニィ」

アトラスさんは、はい、とばかりにマフラーを私に差し出した。

「…はい?」

「お前にやる」

「…」

これには、私も思わず言葉を失ってしまった。

この場面を見ていたら、人魚姫さんは憤慨していたでしょうね。
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