神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
お、お前にやるって…。

「これ…アトラスさんが受け取ったものですよね?」

「ん?それはそうだが。でも、これは女モノのデザインだから、シュニィかアイナにあげてくれ、って意味じゃないのか?」

あっ。

何だかアトラスさん、凄い誤解をしてる。

私としては、非常に助かりました。

マフラーのデザインが、無駄に可愛らしかったことに感謝します。

「それに俺はもう持ってるからな。この世で一番素晴らしいマフラーを」

「え?」

「去年、シュニィが編んでくれただろう?アイナと一緒に」

あぁ…はい、そうでしたね。

去年、アトラスさんへのクリスマスプレゼントにしようと、アイナと二人で手編みのマフラーを作った。

赤じゃなくて、青い毛糸のマフラーを。

それをプレゼントすると、アトラスさんは、気が狂ったんじゃないかと思うほど狂喜乱舞していたんですが…。

…まさか、去年の私の行動が、こんなところで役に立つとは。

人生、何がどう転ぶか分からないものですね。

去年の私、ナイスです。

「俺にはあのマフラーがあるからな。今年も、いや、一生大事に使うぞ!何せ、シュニィとアイナの手作りだからな!」

と、満面笑みのアトラスさんである。

そ、そうですか。それは良かったですね。

となると…人魚姫さんからもらったこのマフラーは、つける人がいない訳で…。

「だから、これはお前にやる。アイナにやるには、ちょっと長いからな」

大人用ですからね。

アイナが巻いたら、長いでしょうね。

例え子供サイズだったとしても、夫の愛人候補から送られてきたマフラーを、自分の娘につけさせるつもりはありませんが。

それは絶対に嫌です。

「ほら、シュニィ」

「ど…どうも…」

私は、おずおずとマフラーを受け取った。

…まさか人魚姫さんも、折角作った手編みのマフラーを。

つけてもらえるどころか、他人に譲渡されるとは思わなかったでしょうね。

…何だか申し訳ない気もしますが。

アトラスさんの手に渡らなくて、ホッとしました。
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