神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
人魚姫さんは、そんなことでは諦めませんでした。

マフラーが送られてきた、その三日後のことでした。

その日私は、アトラスさんと共に、聖魔騎士団の訓練場に赴き。

各部隊との、合同訓練を指揮していました。

別に初めての試みという訳ではなく、定期的に行われている訓練の一環です。

午前中いっぱいかけて、無事に訓練は終了。

後片付けの為に、えっさほいさと、魔導人形を運んでいた…そのとき。

「シュニィ」

「あら、アトラスさん」

アトラスさんの姿を認めるなり、重たかった魔導人形が、あっという間に軽くなった。

というのも、アトラスさんが私の手から、魔導人形を奪い取ったからである。

私は両手で抱えていたのに、アトラスさんは片手で魔導人形を抱いていた。

さすがです。

「済みません、手伝ってもらって」

「構わん。何処に持っていくんだ?」

「第三訓練場に。間違って、第ニ訓練場に紛れ込んでいたようで…元に戻しておこうと…」

「そうか。じゃあ、俺が運ぼう」

「ありがとうございます」

助かりました。

魔導人形はたくさんありますから、誰かが片付ける場所を間違えて、そのままになってしまったのでしょうね。

「今日の合同訓練、お疲れ様でした。アトラスさんと皆さんのお陰で、恙無く終えることが出来ました」

私は、アトラスさんの傍らを歩きながら言った。

訓練場の鍵を持っているのは私なので、私もついていかなくてはならないのだ。

「俺のお陰じゃない。シュニィのお陰だよ」

「…そんな…」

「シュニィが世界一綺麗なお陰だな!」

「…それは、全く関係ないと思います…」

全く、いきなり意味不明なことを言うんですから…。

本当に、困った人、

…そう思ったとき。



「アトラス様!アトラス様ではありませんか」



嬉しそうな声で、アトラスさんを呼ぶ声がして。

私はドキッとして、声の方向を向いた。

そこにいたのは、勿論。

「あぁ、アトラス様…お会いしとうございました…!」

恍惚とした目で、アトラスさんのもとに歩み寄る女性は。

私が手紙を隠し、マフラーも隠した、アトラスさんの愛人候補。

…件の、人魚姫さんであった。

な、何故こんなところに…。
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