神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
お…お弁当ですって?

マフラーやセーターよりも、更にハードルが上がっていませんか?

「これ、わたくしの手作りなんですの」

ですよね。

マフラーやセーターを、手編みで作るくらい器用なのだから。

お弁当も、自分の手で手作りしてきたのだろう。

…なんてことを…。

鈍感なことに定評のあるアトラスさんも、さすがにお弁当までもらったら、何かに気づくのでは。

…と、思ったけれど。

「弁当…?俺は魔導師じゃないが、魔力はたくさんあるから、別に食事の必要はないのだが」

アトラスさんは、やっぱりアトラスさんだった。

さすがです。

その調子で頑張ってください。

「それでも、ですわ。アトラス様の為に心を込めて作りましたの。是非食べてくださいな」

そして、相変わらずへこたれない人魚姫さん。

両者、一歩も引きませんね。

私としては、胃の痛い展開です。

「はぁ、そうか…。まぁ、じゃあ受け取っておくか…」

「ありがとうございます!」

頭に疑問符を浮かべながら、それでもアトラスさんは、お弁当箱を受け取った。

受け取りますか…。そうですよね…。断る理由もありませんし。

「また会いに来ますね、アトラス様。お弁当箱は、そのときに返してくだされば良いですから」

「ん?あぁ、分かった」

「それでは…御機嫌よう」

嬉しそうに微笑んで、人魚姫さんは踵を返した。

スキップしながら帰っていきましたよ。嬉しそうで何よりです。
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