神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…人魚姫さんが、大変嬉しそうなのは結構ですが。

残された私は、一体どうしたら良いんでしょう。

しかも。

「珍しい差し入れをもらってしまったな」

「…そうですね…」

「折角だから、一緒に食べよう。シュニィ」

「…」

…アトラスさんと来たら、全然気づいていないんですから。

一緒に食べよう、じゃないですよ。

いや、一人で食べられるよりは良いですけど。

人魚姫さんもまさか、真心込めて作ったお弁当を、別の女性とシェアされているとは思ってないでしょうね。

既婚者に、手作りお弁当など渡すものではないということです。

そもそも人魚姫さんは、アトラスさんが既婚であると知っているのでしょうか…?

羽久さんが…伝えてくれているものだと思うのですが…。

それでも、やっぱり聞く耳を持たないのかもしれない。

…で、それはさておき。

人魚姫さんの手作りのお弁当を、私もご相伴に預かったのですが。

味は、意外なことに美味しかったです。

意外って言ったら、人魚姫さんに失礼かもしれませんけど。

魔法道具なのに、料理なんて出来るんですね。

何か怪しいお薬が入っているとか、そういうことはなさそうで、安心しました。

でも、一つ気になったのは。

「…美味しいですか?アトラスさん」

「あぁ、悪くないが…。しかし、妙に…魚介類が多くないか?」

「…ですよね…」

私もそう思っていたところです。

魚のフライとエビフライ、カキフライの豪華三種盛りに。

ホタテのバター焼き、イカの煮物、海藻サラダ。

おにぎりのご飯は、わかめご飯ですし…。

人魚姫と言うだけあって、海の幸をふんだんに使ってみたのでしょうか。

…それって、共食いなのでは?

いえ、考えないことにしましょう。

「それに、シュニィの手料理の方が遥かに美味いぞ」

と、アトラスさん。

…。

「そんなことは…」

「いや、そうだ。シュニィの手料理に勝る食べ物は、この世に存在しない。シュニィの手料理に比べれば、一流ホテルのディナーでさえ生ゴミ同然だ」

「それは言い過ぎです」

ホテルの方に失礼でしょうが。
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