神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「わたくし、そろそろ…アトラス様にプロポーズしようと思いますの」

人魚姫は唐突に、とんでもないことを言い始めた。

俺もシルナも、思わず噴き出してしまうところだった。

危ねぇ。

…こいつ、頭大丈夫か?

いや、大丈夫ではないな。割と最初からおかしかったわ。

プロポーズって、お前。

出会って三週間なのに、もうプロポーズ?

そもそも、お前…アトラスと付き合ってないだろ。

付き合ってもない相手に、いきなりプロポーズするとか。 

アトラスも訳分かんないだろうな。

「結婚指輪も用意したんですの」

人魚姫は、大粒の真珠付きの指輪を恍惚と眺めていた。

…何処から持ってきたんだよ、それ…。

つーか、真珠の指輪って、結婚指輪としてはあまり相応しくないのでは?

そこはお前…ダイヤモンドの指輪とかさ…。

…何で真珠?

あ、そうか。人魚だから…。

いや、そんなことはどうでも良いんだ。

「ぷ、プロポーズって…」

これには、シルナも困惑。

「愛しい殿方に愛の告白をする…。そして私とアトラス様は、永遠に結ばれるのですわ」

そんなシルナの表情にも気づかず、うっとりして呟く人魚姫。

まぁ、夢を見るだけなら、誰しも自由だよな。

そりゃあ、勝手に好きな妄想してれば良い。

お前がアトラスと永遠に結ばれることは、永遠に有り得ないけどな。

「出来れば、アトラス様の方からプロポーズして欲しかったのですけど…」

我儘。

「でも、アトラス様はシャイですから、なかなかプロポーズしてくださらないのですわ」

妄想、ここに極まれり。

「ですから、わたくしからプロポーズ致しますわ。きっと喜んでくれるに違いありません」

…。

…頭の中お花畑で、羨ましい限りだよ。

しかし、どうやって人間と人魚と結婚するんだ…?

結婚届とか、何処に出せば良いんだ。

役所は受け付けてくれないと思うぞ。

色々とツッコミどころは満載だが。

人魚姫としては、大きな愛を前にして、種族間の壁など関係ないんだろうな。

まぁ、ナジュとリリスもそうだもんな。

愛さえあれば、結婚などという人間の制度などに囚われない。

ナジュとリリスは、お互い自分の気持ちが一致しているから、それで上手く行っているが。

アトラスの場合は違う。

いくら人魚姫に愛があろうとも、越えられない壁がそこにある。

お前ごときで、シュニィの壁を越えることは出来ないぞ。
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