神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
人魚姫の後をつけて、聖魔騎士団隊舎に向かう。

人魚姫は何処にいるか、と思ったら…。

「…アトラス様!」

運良く、人魚姫がアトラスを呼び留める声が聞こえた。

おっ、あっちだな。

もしかして、もうプロポーズタイムは終わったか?

急いで、現場に急行。

茂みに隠れて、二人の様子を見守ろう…と思ったが。

そこにいたのは、二人ではなく三人だった。

アトラスの横には、シュニィがついていた。

マジかよ。

他の女からのプロポーズを、正妻の前で行うとは。

あの人魚姫、何考えてるんだ。

シュニィにとっては、不快以外の何物でもなかろう。

しかし人魚姫は、都合の悪いことは何も聞こえない。

シュニィがアトラスの妻であるという事実も、恐らく認めないだろう。

頑固かよ。

「アトラス様、お話があるんです」

人魚姫は、目をキラキラさせてアトラスに言った。

やっぱりプロポーズはこれからなんだな。

シュニィ、今のうちに逃げろ。逃げてくれ。

しかし人魚姫は、シュニィの存在など、全くお構い無し。

「俺に話…?何だ?」

と、首を傾げるアトラス。

「そもそも…お前、最近よく見かけるが…。結局、誰なんだ?聖魔騎士団の人間じゃないだろう?」

まさかの、アトラスは人魚姫の存在を、認知さえしていなかった。

お前、相手が誰かも分からないままにプレゼントもらってたのか。

まぁ、アトラスは割とそういうところ、緩いって言うか…気にしないって言うか。

細かいことにこだわらないタイプだから。

そんなアトラスでさえ、さすがに人魚姫の存在が気になってきた様子。

おせーよ。

さぁ、人魚姫はどう答える。

「わたくしは、あなたの未来の花嫁ですわ」

予想の斜め上の返事。

厚かましいにも程があるだろ。目をキラキラさせんじゃねえ。

「…??」

これには、アトラスも困惑。

未来の花嫁って、何のことだと思ってるんだろうな。

ちなみにアトラスの隣にいるシュニィは、卒倒しかけていた。

本当ごめん、シュニィ。

「わたくしはあなたの、未来の花嫁ですわ」

人魚姫は、同じことを再度口にした。

自信満々である。

一体、何処からそんな自信が出てくるのか…。

「わたくしと結婚してくださいな、アトラス様。わたくしと共に、温かな家庭を築きま、」

「断る」

…。

…カンカンカンカン。

プロポーズタイム、終了。
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