神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「わたくしは…必ず、理想の、愛しい殿方と添い遂げる」

と、呟くなり。

殺意増し増しの人魚姫は、片手に物騒な武器を召喚した。

まるで、漁師が使う銛(モリ)のような…ポセイドンの持つ、三叉の槍のような武器だった。

あ、あんなもの…人魚姫が持って良い代物ではない。

武闘派お姫様にも程がある。

「それを邪魔する者は…誰であろうと消しますわ!」

「…!」

殺意を爆発させた人魚姫は、槍を大きく振りかぶり。

そのゴツい三叉の槍で、シュニィを串刺しにしよう…と、したが。

「シュニィ!!」

そんなことは、当然アトラスが許さない。

ポセイドンの武器を物ともせず、アトラスは大剣を振り回して、槍を止めた。

ポセイドンの槍も、相当ゴツくて物騒だが。

対するアトラスの大剣も、負けてはいない。

「あ、アトラスさん…!」

「何人たりとも…シュニィに手は出させん!!」

そう言うなり。

アトラスは、大剣を大きく振りかぶった。

「シュニィ!」

「はいっ…!」

アトラスが剣を振り下ろす、その前に。

シュニィは、アトラスの大剣に向かって魔法をかけた。

剣の威力を増大させる力魔法と、人魚姫を焼き尽くす炎魔法だ。

「…これで終わりだ!」

「きゃぁぁぁ!!」

赤い炎を纏った大剣が、人魚姫の槍を粉々に砕き。

そのまま、人魚姫の身体を一刀両断した。

い…一撃で…。

人魚姫は、力を失ったようにその場に倒れた。

「ど…どうして、ですの…?わたくしは…理想の殿方と…添い遂げる、為に…」

「…それは悪かったな」

アトラスは大剣を降ろし、人魚姫に向かってそう言った。

「だが、俺にはもう、一生添い遂げる相手がいる。誰が何と言おうと…俺はシュニィと添い遂げる。他の誰かじゃ駄目なんだ」

「…そん…な…。そんな…わたくしは…わたくしの恋は、また…」

ぶつぶつと呟く人魚姫の、その身体が。

少しずつ、細かな泡になって…虚空に消え始めた。

…あ…。

「シルナ…あれって…」

「…うん…。…人魚姫の、最期だよ」

…人魚姫の…最期。

それは、オリジナルの童話のストーリーと同じ。

「わたくしの恋は…また、叶わないのですね…」

そう言い残して。

人魚姫は、泡になって消えた。

最後の泡の一つが、ぱちんと弾けたとき。

俺達を悩ませた魔法道具、『人魚姫』の物語が、幕を閉じたのだった。
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