神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「何者かが、私のヨーグルトポムポムを勝手に食べた…!?」

…そりゃ大事件だな。

それだけデカいんだから、別にちょっとくらい横取りされても良いのでは?

「どうせ自分で齧ったんでしょう。菓子を前にしたあなたは、意地汚い餓鬼のようなものですからね。おまけにボケているのだから、自分が食べようと他人が食べようと、気づいてないんでしょう」

「イレースちゃん…。私、さすがに泣くよ…?」

勝手に泣けとばかりに、ふんと鼻を鳴らすイレース。

確かにシルナは、砂糖を前にすると餓鬼と化すが。

さすがに、自分の食べた菓子くらいは覚えているだろう。

それさえ忘れるようになったら、いよいよ学院長引退の時期。

まぁ、摘み食いの犯人なんて、難しく考える必要はない。

「どうせナジュ辺りの犯行だろ?」

「どうせって何ですか。失礼過ぎるでしょう。僕じゃありませんよ」

本当かよ?

「ナジュ君はずっと僕とトランプしてたから…。ナジュ君は何も悪いことはしてないよ」

天音が、ナジュのアリバイを立証してくれた。

天音…お前、本当良い奴だな。

さっきイレースに怒られたとき、ナジュに責任を押し付けられていたというのに。

それでも庇ってやるのかお前は。優しいな。

…それにしても。

「ナジュじゃないなら、一体誰が…」

シルナのケーキなんて、勝手に盗み食い、

「もぐもぐ…。不思議な味だね、何だろうこれ」

「さぁ、知らない。どら焼きの方が美味しいねー。もぐもぐ」

…。

…今何か、不穏な会話が聞こえなかったか?

ちらりと、声の聞こえた方に目をやると。

学院長室の隅っこに座って、ケーキをもぐもぐやっている二人組がいた。

…お巡りさん、こいつらです。

摘み食いの現行犯で、逮捕推奨。

よく見たら、さっきまで閉まっていたはずの窓が、いつの間にか開いていて。

カーテンがひらひらと、風にはためいていた。

…いつの間に入ってきて、いつの間にケーキをもぎ取って、いつの間にそこで食ってたのか。

気配というものを全く感じないから、お化けがケーキ食ってるかのようだ。

せめて、一言言っていけよ。

びっくりするだろうが。

「…おい、令月。すぐり」

二人の摘み食い犯の名前を呼ぶと。

二人共、くるりとこちらを向いた。

「お前ら…いつの間に入ってきた?」

「え?いつだろー?」

「10分前にはいたよ」

そうですか。

全く気づかなかったよ、畜生。
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