神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「世の中には、宿題より大切なことが山程ある。そうは思わない?」

そりゃ確かに、世の中には宿題より大切なことが山程ある。それは俺も同感だ。

しかしそれは決して、ヨーグルトポムポムではないと思うんだよ。

「は、はぁ…」

ほら。生徒も困ってるじゃないか。

しかし、シルナは妙に真面目な顔をして力説を始めた。

「例えば、今ここにあるヨーグルトポムポム。このケーキの味を楽しめるのは、今だけだよ?これを逃したら、次はいつ食べられるか分からない…。だよね?」

「そ…そうですかね…?」

「そうだよ。従って君達が今優先すべきは、宿題よりもまず目の前のケーキ、」

と、言いかけたシルナの肩に。

イレースの手が、ぽんと乗せられていた。

…そして、イレースのもう片方の手には。

バチバチと雷を迸らせる杖が握られていた。

…ワーオ。

二人の男子生徒が、ごくりと生唾を飲み込む音が聞こえた気がした。

「…お二人共、もう帰って結構ですよ」

と、イレースは微笑んで、男子生徒二人にそう言った。

イレースが。あのイレースが微笑んでるんだぞ。

それは最早、閻魔大王の微笑みに等しかった。

「私は…このパンダに話があります」

「そ、そそそ…そうですか」

「じ、じゃあ失礼します…!」

男子生徒二人は恐怖に染まった目で、逃げるように学院長室から出ていった。

あーあ…。トラウマにならなきゃ良いんだが…。

下手をしたら、夢に出てくるぞ。

…そして、取り残されたシルナは。

「…覚悟は出来てますね?」

「で、で、出来てない。し、死ぬ前に。死ぬ前にチョコレートを一口、」

「つまらない遺言でしたね」

「嫌ぁぁぁぁぁ!助けてぇぇぇぇ!」

…あーあ…もう…。

毎度のことながら…全く、下らないやり取りだよ…。

「良いじゃないですか。平和だってことですよ」

俺の心を読んだナジュが、すかさずそう言った。

そうだな。そりゃそうかもしれないけど。

さっき二人の男子生徒が届けてくれた、この謎の木箱が。

そんな俺達の平和を脅かす原因になりはしないかと、一抹の不安を覚えているところだよ。
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