神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…すると。

「開けてみないの?」

横で聞いていた令月とすぐりが、とてとてとこちらに歩み寄ってきた。

「開けたいのは山々だが、鍵がないと開けられないだろ?」

「え、何で?」

何でって、何がだよ。

鍵がかかってるんだぞ?蓋に、小さな南京錠がついている。

鍵を持っていない俺達が、開けられるはず…、

「羽久、それちょっと貸して」

「え?あ、うん…良いけど」

令月に促され、木箱を渡すと。

「よいしょ…っと」

令月は、懐からクリップを取り出し、先端を曲げて、南京錠の小さな鍵穴に突っ込んだ。

そのまま鍵穴を探ること、およそ5秒。

パチッと音がして、南京錠が床にこぼれ落ちた。

…マジで?

「お前…いつの間にそんな特技を…」

「これくらい、『アメノミコト』の暗殺者なら普通だよ」

あ、そうか…。

…そういや、窓の鍵だって平気で開けて入ってくるんだもんな。

今更、お前達に鍵開けのスキルがあることに驚くのは馬鹿馬鹿しいな。

「それに、僕はまだまだだよ。鍵開けは『八千歳』の方が上手だもん」

とのこと。

「…そうなのか?」

「まーね。鍵穴のあるものなら、何でも。鍵穴に糸を突っ込めば開けられるよ」

…いくら校舎内に鍵をかけても、好き勝手に出入りする訳だよ。

今度から、鍵だけじゃなくてトラップも仕掛けておこうぜ。

勝手に校舎の鍵開けたら、閃光弾が打ち上がるように。

そうでもしなきゃ、一向に侵入をやめないだろ。こいつらは。

まぁ、そこまでしても入ってきそうな気がするけど。

…で、今はそれよりも。

「何が入ってんだ?」

「えぇと…」

鍵付きの蓋をパカッと開けてみると、中に入っていたのは。

「…ガラスの、靴…?」

一同、頭を捻った。

何だこれは…。何でこんなものが。

透明なガラスの、ハイヒールの靴。

しかも、片方だけ。

これじゃあまるで、お伽噺に出てくる…。

「シルナ、これ、なん…」

「…ガラスの靴…?…!まさか!」 

「え?」

シルナが、何かに気づいたそのときだった。



抵抗する術も、咄嗟に逃げ出す暇もなかった。

俺達のいる「空間」が、全く別の場所に転移した。


< 284 / 634 >

この作品をシェア

pagetop