神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
学校という施設ほど、昼間の姿と夜間の姿で大きな差がある建物はないだろう。

昼間は明るく、賑やかで、活気に満ちているが。

その分夜になって生徒がいなくなると、途端に痛いほどの静寂に包まれる。

このギャップが、独特の不気味さを生み出しているんだろうな。

それに、イーニシュフェルト魔導学院は歴史が長い…と言えば聞こえは良いが。

要するに、建物がそこそこ古いので、余計雰囲気があるって言うか。

建物が古ければ古いほど不気味に見えるってこと、あるよな。

深夜にボロボロの木造アパートを見ると、お化けが出るかも、って怯えるけど。

いくら深夜でも、エレベーター付き新築マンションを見て、お化けに怯える人はなかなかいないだろう。

そういうことだ。

建物が古いと、それだけで不利だよなぁ。

まぁ、学校という施設そのものが、心霊スポットとしては定番だからな。

余計不気味に見えるのかも。

で、そんな不気味な校舎を、イレースの発案で、今夜からパトロールすることになり。

記念すべき最初の夜を担当するのは、俺とシルナ、そして発案者のイレースである。

何も出ないとは思う…けど。

あんな噂が出ている以上、全く何事もないだろう、と安心することも出来ない。

何かいるんじゃないか?と、つい周囲をきょろきょろしてしまう。

俺の腕を抱いて、既にぶるぶる震えているシルナほどじゃないが。

手を離せよ。

「あー、怖い。怖いよ〜…怖い怖い…」

「まだ何も出てきてないだろ」

「で、出てきてからじゃおそ…」

と、シルナが言いかけた、丁度その瞬間。

窓の外で、木にとまっていたカラスが、一斉にバサバサバサッ、と音を立てて飛び立った。

「ぴゃあぁぁぁぁぁ!!」

シルナは、この世の終わりみたいな顔をして俺に飛びついてきた。

うるせぇ。

いや、そりゃ俺も、今のはちょっとびっくりしたけどさ。

カラスよりも、シルナの悲鳴の方にビビるわ。

「…喧しいですね…。静かにしなさい」

イレースだけが、全く動じることなく、大騒ぎするシルナに目を釣り上げていた。

さすが、肝が据わってるよ。イレースは。

イレース一人に任せても大丈夫な気がするけど、ここで逃げるほど薄情じゃない。

責任持って、朝まで見張っててやるよ。

「とりあえず…中に入ってみるか」

「そうですね」

イレースは、施錠された第二稽古場の鍵を開けた。

幽霊がいるかもしれないっていうのに、全く動じていない。

ガチャッ、と扉を開け、イレースを先頭に第二稽古場に足を踏み入れた。
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