神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
何事もなかったのは、その日の夜だけではなかった。

翌日の夜は、天音とナジュに深夜パトロールしてもらったのだが。

結局、何もなかったらしい。

あまりに何もなくて、暇を持て余したナジュは、途中から稽古場の椅子に座って、眠りこけていたそうな。

天音一人が、律儀に朝まで起きていたそうだ。

幽霊が出るかもしれない場所で、よくぐーすか眠れるもんだ。

でも、幽霊が出るという噂とは裏腹に、驚くほど何もないのだから。

そりゃあ、眠くなってくるのも当然だ。

寝ずの当番を始めて三回目の夜には、とうとうシルナでさえ、夜間巡回に慣れてしまったらしく。

呑気な顔して、「深夜のチョコパーティー」と称して、持参したチョコレート菓子を貪っていた。

あれだけびびってた癖に、何も出てこないと見るや、これだからな。

全く現金な奴だよ。

ともかく、幽霊が出てこないのは良いことだ。

やっぱりあれはデマだったんだ、単なる噂だったんだ、と安心した。

イレースも全校集会で、「下らない噂が流れているようですが、あんなものはデマです。私がこの目で確認しました。下らない噂話に花を咲かせている暇があったら、勉強しなさい」と一喝していた。

身も蓋もない。

これは、生徒達もかなり痛烈な一撃だったらしく。

その全校集会を境に、放課後の校舎に、ポツポツと生徒達が戻ってくるようになった。

やれやれ。一件落着だな。

しばらくすれば、完全に噂も消え。

以前のイーニシュフェルト魔導学院が戻ってくるだろう。






…と、思っていた矢先のことだった。
< 32 / 634 >

この作品をシェア

pagetop