神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
とにかく一度、ベリクリーデを隊舎の中に連れ戻し。

シャワーを浴びて、びしょ濡れの服を着替えるように指示。

風邪引くぞ、そんな格好してたら。

ベリクリーデがシャワーを浴びている間に、俺は近場で、釣り竿を調達することにした。

しかし、近場に都合良く釣り専門店はない。

仕方なく、俺は釣り竿を手作りすることにした。

ベリクリーデじゃないが、一応これでも、昔、魚釣りは軽く齧ったからな。

材料だけをホームセンターで買ってきて、魔力で加工しながら、手製の釣り竿を作り上げた。

まぁ、こんなもんだろ。

手作りの為、強度としてはいまいちだが…。

本気でマグロを釣る訳でもなし、大抵の雑魚なら、この程度の竿で釣れると思う。

ベリクリーデの趣味なんて、長くても一か月経てば、次の趣味に変わるくらい移り気なんだから。

間に合わせの道具で充分だ。

…よし、こんなものだな。

すると、そこに。

「ジュリスー。お風呂上がった」

「おー、おかえ…ってお前、髪を拭けよ」

「?」

水滴落ちてんぞ、床に。

あーあー…もう…。床がびしょ濡れ。

俺は、ベリクリーデが首からさげていたタオルを取って、わしゃわしゃと髪の毛を拭いてやった。

子供だ、子供。こいつは子供。

「あのなぁ、お前…ちゃんと拭いてから出てこいよ」

「あのね、ジュリス。もう一個思い出した、魚釣りする理由」

「はぁ?」

俺の話は無視かよ。

「飢えた人に、魚をあげちゃ駄目なんだよ。釣り竿をあげるの。そうしたら、その人はずっと魚が食べられるでしょ?」

…。

…まぁ、言いたいことは分かる。

そんな逸話があったな。格言みたいなものだが。

飢えた人に、その場しのぎで魚をあげるのではなく。

釣り竿を渡し、魚を釣る方法を教えれば、その人は二度と飢えることはない。

あの話を、ベリクリーデも聞きつけたらしい。

で、感銘を受けたのか知らないが、「じゃあ自分も魚釣りしてみよう」と思ったんだな。

ふーん…。まぁ、動機は別に、何でも良いんだけど…。

「ジュリスも一緒に行こう、魚釣り」

「…分かったよ」

俺は、溜め息を噛み殺しながら頷いた。

行かねーよ、と言いたいところだが。

ベリクリーデを一人で海や川に行かせたら、魚を釣るどころか、ベリクリーデが流される恐れがある。

川辺りや海辺でうっかり足を滑らせてみろ。どうなることか。

監督役として、誰かがついていった方が良いだろう。

こうして、俺は今日も、ベリクリーデの奇行に付き合わされることになるんだよ。

イーニシュフェルト魔導学院は、例の魔法道具で大変だっていうのに。

こっちは呑気なもんだ。申し訳なくなってくる。
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