神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「今夜のチョコレートは〜、美味しい美味しいチョコムース〜」

「…」

「はいっ、これ羽久どうぞ。はいっ、こっちはイレースちゃんどうぞ」

満面笑みのシルナが、チョコムースのお皿をこちらに手渡してきた。

何だよ、今夜のチョコレートって。

「結構です」

イレースは眉間に皺を寄せて、チョコレートムースを断った。

「何で!?」

「こんな時間に物を食べると、豚になりますよ」

「…」

イレースの辛辣な一撃に、シルナはしばし硬直し。

そして。

「…夜勤だから。深夜に労働して、カロリー消費してるから。その分を補ってるだけだもんね」

苦しい言い訳を披露。

夜勤って言っても、朝が来るまでに、何度か校舎内をぐるっと巡回する程度なんだけどな。

「ところで、チョコレートはどうでも良いですが」

と、イレースが切り出した。

「チョコレートがどうでも良い…!?どうでも良くない!チョコレートは大事だよ!」

「黙りなさい。連日こうして見張りを立てていますが、何日張り込んでも、何も出てきませんので…。深夜のパトロールは、今夜で終わりにしようと思います」

お、マジで?

それは朗報じゃないか。

幽霊が出てこなくて安心したものの、夜勤をして楽しいはずもなく。

早いところ終わらないかなぁと、ずっと思っていたのだ。

やっと、お代官様の許可が得られたぞ。

「今日で終わり…?じゃあ、深夜のチョコパーティーも今夜で終わり…!?」

「名残惜しいなら、明日からも自主的に巡回しても良いんですよ」

「と、ととととんでもない!」

チョコパーティーはしたいが、深夜の巡回はしたくないらしい。

俺だって嫌だよ。

何も出てこないとはいえ、深夜の校舎が不気味なのは変わりないし。

「結局、何も出てこなかったな…」

あれだけビビっていたのは、何だったのか。

開けた玉手箱の中が空っぽで、拍子抜けだ。

いや、だからって幽霊に出てこられても困るけどな?

それはそれで困るから、何も出てこなかったのは有り難いが。

でも、あれだけ目撃情報が出て、生徒達があれだけビビっていたのに。

新聞部が号外を配るほどだからな?

それなのに、いざ調査してみると、噂のモノは何も出てこない。

そりゃ拍子抜けもするよ。

「だから言ったでしょう。幽霊騒ぎなんてデマだと」

イレースは、憤然としてそう言った。

彼女にしてみれば、下らない噂のせいで、これほど時間と労力を費やされたことが腹立たしいのだろう。

結局、噂が噂を呼んだだけだったんだろうな。

生徒達も、一体何処から噂を聞きつけ、広げていったのか…。

やっぱりあれか?噂のきっかけは、元暗殺者組か?

あの二人が、深夜に校舎に入る姿を、Cさんか誰かが見つけて。

「あれって幽霊…?校舎に幽霊が出た!」って、びっくりして噂を広め。

それがねずみ算式に広がって、こうなったのかも。

あいつらの罪は重い。
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