神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
その後。

俺達は懐中電灯を片手に、今夜の巡回を始めた。

イレースの許可も降りたことだし、夜間巡回も今夜で最後だな。

最初はめちゃくちゃ不気味だったけど…いや、今も不気味だけど…最初の頃のような恐怖はない。

だって、どうせ何も出てこないし…。

幽霊が出ると噂になっていた食堂も、図書室も行ってみたけど。

やっぱり、何もない。

そして、俺達が向かったのは…件の第二稽古場。

ここも、連日訪れる間に、恐怖が薄れてしまったな。

イレースが稽古場の鍵を開け、中に入る。

暗がりを懐中電灯で照らしながら、稽古場の中をぐるりと見渡す。

うん、何もいない。

「ほら、言わんこっちゃない。何も出てこないじゃないですか」

「本当にな…」

ここで目撃されたという幽霊って、結局何だったんだろうか。

多分、単なる見間違いなんだろうけど。

全く、噂の出処は何処だったのか知らないが…良い迷惑だ。

「さぁ、校舎に戻りますよ」

「あぁ」

相変わらず、何も出てこない第二稽古場の扉を、再び施錠して、校舎に戻った。

あとは食堂を見て、それから図書室に行って…職員室を回って、それで巡回は終わりだな。

やれやれ、俺達は一体何をやらされてるんだか…。

こんなことはさっさと終わらせて、さっさと自分の部屋に帰りたいものだ。

頭の中で溜め息をつきながら、食堂に向かって、廊下を歩いていた…。



…そのときだった。



「…ひぇっ!?」

「うわっ!?」

いきなり、俺の後ろをついてきていたシルナに、服の裾を掴まれた。

あぶなっ。転けるところだった。
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