神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
令月についていって辿り着いたのは、第一稽古場だった。

…何でこんなところで、ホウキとバトルするようなことになるんだ?

深まる謎。

「『八千歳』。ホウキは?」

「あ、戻ってきた。うん、今のところだいじょーぶ。援軍もないよ」

「そっか。良かった」

「ふぇぇぇ、今の何だったの?」

稽古場の中に入ると、すぐりと、それからツキナという女子生徒がいた。

ツキナはすぐりにくっついて、動揺しているように見える。

詳しく、事情を聞きたいところだが…。

その前に、俺が気になったのは。

すぐりの足元に落ちている、真っ二つに両断されたホウキだ。

竹箒、って奴。

稽古場の周囲を掃く為の竹箒。

その竹箒は、スパッと綺麗な切断面を晒して、床に転がっている。

そして、無数に伸びたすぐりの糸で絡め取られ。

令月の言った通り、捕獲されてしまっている。

ホウキなのに。

…全く意味の分からない状況である。

「…お前らの戦ったホウキ、っていうのは…?」

「え?ここにあるじゃん。これだよ」

すぐりは、自分の糸が絡まったホウキの残骸を指差した。

うん…それは確かに、ホウキなんだけど。

でも、腑に落ちないことばかりだ。

「…ただのホウキだろ?」

何処からどう見ても、何の変哲もない、普通のホウキ。

何でこんなものと戦う羽目になったんだ?

「違うよ。襲ってきたんだよ」

すぐりが口を尖らせて、そう言った。

襲ってきた…ホウキが?

ホウキだぞ?ホウキなのに?

「いきなり痙攣したかと思ったら、ふわふわ浮いててさ。こっちに狙いを定めて、バビューン、って飛んできたんだよ」

「…」

状況を説明しようとしてくれてるんだろうけど、余計に分からなくなるばかり。

バビューンと飛んでくるホウキって、何だそれは。

最近のホウキは痙攣するのか?

「全く、危なかったよ。間一髪だったんだもん。ねーツキナ」

「う、うん。私死ぬかと思った〜!すぐり君、助けてくれてありがとう!」

「どーいたしまして」

…すぐりのみならず、ツキナまで。

ホウキに襲われたなんて、とても信じられないけど…。

令月もすぐりも、嘘をつく理由はないし。

ツキナにも当然、嘘をついて俺達を嵌める理由はないはず。

…ってことは、本当なのだ。

本当にこの三人は、ホウキに襲われたのだろう。

信じられないけど、信じるしかない。
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