神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
この場において、封印の魔法をまともに扱えるのはシルナくらいだ。

他のメンバーは、封印を専門に行えるほどの技術はない。

聖魔騎士団のシュニィ達に協力を仰いでも、無理だろうな。

かつてこの地にいたイーニシュフェルトの里の賢者は、今の俺達より断然優れた魔導師だった。

そんな優秀な魔導師が、6人がかりで、ようやく封印することが出来たのに。

今の俺達に、同じことは出来ない。

俺達はそれほど、封印の魔法が得意な訳じゃないからな。

もう二度と、『眠れる森の魔女』を封印することは出来ない。

封印出来る人間がいない。

だから、あの魔法道具は…決して、この世に目覚めさせてはならなかったのだ。

一度目覚めてしまったが最後、二度と誰も封印出来ないから。

…さて、どうしたもんかな。

「そんな…。じゃあ、一体どうすれば…」

天音が、絶望に似た声で呟くのも分かる。

正直、俺もかなり焦ってる。

どうしたら良いのだ。

時魔法は効かない、毒魔法も効かない、丸焦げにしてもノーダメージ、なんて。

誰彼構わず襲いかかる暴走ホウキを、どう扱えば良い?

「空間魔法で、断絶空間にでも送ったらどうです?」

衝撃の事実を聞かされても、相変わらず冷静さを失わないイレースが、そう提案した。

あ、成程…。

時空のゴミ捨て場である断絶空間に送ってしまえば、もう戻ってこられないのでは?

…しかし。

「それは、以前里でも試したことがあるんだ」

とのこと。

そうか…。まぁ、そうだよな…。

俺達が考えつくようなことは、イーニシュフェルトの里の賢者なら、すぐに思いつくよな。

「駄目だったんですね?」

「時間稼ぎにはなったよ。でも…やっぱりまた戻ってきて…」

断絶空間さえ、自力で突破出来るなんて。

いくらなんでもポテンシャル高過ぎるだろ。このホウキ。

閉じ込めても、溶かしても、焼いても、時間を止めても駄目なんて…。

一体どうすれば良いんだ。

「細切れにして、海に撒いたら?」

「バッキバキに折ったら良いんじゃない?」

元暗殺者組、なんとも過激な発想。

とりあえず壊せ、と。

まぁ、封印出来ないなら壊してしまうしかないよな。

壊してしまえば、脅威はなくなるんだから。

しかし、予想通りと言うべきか。

「時間稼ぎは出来ると思う。でも…しばらく経てば、また修復してしまうだろうね」

…そうだな。

真っ二つにされても、元に戻ってたし。

物理的な破壊も、現実的ではないだろう。

「じゃあ…一生、このホウキに怯えながら暮らさないといけないってこと…?」

と、天音が尋ねた。

…考えたくない悪夢だな。

しかし、現状…それ以外の選択肢はない。
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