神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

「私達が選ぶんじゃなく、『眠れる森の魔女』自身が自分の契約者に相応しい人物を選定して…」

「…」

「『眠れる森の魔女』の眼鏡に適った人間だけが、契約者に選ばれる。どういう条件で、どんなタイミングに契約者が選ばれるのかは…私にも分からない。それを決めるのは『眠れる森の魔女』だから」

「…」

「参考までに…もとの契約者が亡くなったとき、里のほとんどの人間が、暴走する『眠れる森の魔女』を止める為に契約しようとしたけど…誰も選ばれなかった」

「…」

…だろうな。

新たな契約者が、誰も現れなかったから…封印する必要に迫られた訳で。

そんな簡単に契約者が決まるなら、わざわざ手間暇かけて封印しないっての。

「…ってことは、シルナも選ばれなかったってことだな？」

「うっ…」

そういうことらしい。

「まぁ、こんな怠惰なパンダが主なんて誰だって嫌でしょう。私だって死んでも御免です」

いかなるときでも、辛辣なイレースである。

ま、まぁ…。このホウキ、随分主を選り好みするタイプのようだから。

しかし、そうなると…非常に面倒だな。

「契約者は…どういう基準で選ばれるんだ？」

それも、ホウキ次第なのか？

「分からない…。『眠れる森の魔女』の意志によって選ばれるから…」

…やはり、ホウキ次第らしい。

分かりやすく基準を示してくれれば、話は楽だったんだが…。

「案外、面食いだったりしませんかね。イケメンな主としか契約しない、とか…それなら僕と契約してくれるかも」

「あのな、ナジュ…。誰もがお前みたいに単純だと思ったら、大きな間違いだぞ」

そして、自惚れるな。

いや、まぁイケメンかもしれないけども。

もしかしたら、イケメンより美女が好きなタイプかもしれないだろ。

優秀な魔導師としか契約しない…っていうのも、なさそうだな。

イーニシュフェルトの里の賢者は、揃って優秀な魔導師揃いだし。

それでも契約者に選ばなかったってことは、主が優秀な魔導師であるかどうかは関係ないんだろう。

…だからこそシルナも、どういう基準で契約者が選ばれるのか分からない、と言っているのだ。

それが分かるなら、苦労して封印したりはしないよな…。

…でも、やるしかない。

俺達には、このホウキを封印することは出来ないのだ。

一生、ホウキに付きまとわれる人生なんてお断りだからな。

だったら、何としても…契約者を見つけなくてはならない。

「けーやくしゃだって。なんか面倒なことになったねー」

「契約したらどうなるんだろう？」

「さぁ。別に自分専用のホウキなんて、要らないんだけどなー」

ぶつぶつ、と二人で会話している元暗殺者組。

…確かに、契約したらどうなるんだろう？

魔法のホウキがいつでも使える…とか？

…うん。別に要らないな。

とりあえず、暴走をやめてくれさえすれば、それで良いや。