神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「掃除してどうするんだよ、天音…」

「い、いや…。何となく…汚れたままだと可哀想かなって…」

何がだよ。

天音の奴、敵に情けをかけやがって。

相変わらずの優しさだが、しかし、こんないけ好かないホウキに情けをかけてやる必要はないぞ。

どうやって破壊しようか、と考えているくらいなのに。

「それに…このホウキを大人しくさせるには、やっぱり壊さなきゃいけないのかもしれないけど…」

「…」

「でも、僕はまだ契約する道を諦めた訳じゃない。戦わずに、壊さずに済むなら…それに越したことはないでしょ?」

それは…。

…まぁ、そうなんだけど…。

優しい奴だな、お前は。

「それに…前の契約者が亡くなって、それからずっと長い間封印されて…。寂しかったんじゃないかって…」

「…」

「だから、暴走してるのも…その寂しさの裏返しなのかな、と思って…」

…天音の奴。
 
お前は、このホウキに自分の意志があると思ってるのか?

それは…分からない。ホウキに意志があるなんて、ホウキにしか分からないことだ。

普通に考えたら、ホウキに意志があるなんて有り得ない。

でも、これは魔法道具だ。

『眠れる森の魔女』と名付けられた、イーニシュフェルトの里の魔法道具だ。

ただのホウキじゃない。

自分の意志、ってものが、もしあるなら…あるいは…。

…。

…いや、やっぱりないわ。

俺は天音ほど優しくはないからな。

ホウキに意志があろうとなかろうと、こちらに敵意を向けていることに変わりはない。

ホウキが寂しがってるだけ…なんて、とても信じられない。

本当に寂しがってるだけなら、動き出す度に、ナジュの土手っ腹を貫く必要なんてないだろ。

そんな天邪鬼ホウキに付き合うほど、俺の心は広くないからな。

俺はホウキとは和解出来ない。

ホウキは所詮、ホウキでしかない。

こいつが懲りずに暴走するなら、どんな手段を使ってでも破壊するまでだ。

…しかし。

「…」
 
ホウキをせっせと掃除する天音を、シルナは無言で眺めていた。

…?何か、気になることでもあるのだろうか…?
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