神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…それから、およそ二時間半後。

案の定、またしても『眠れる森の魔女』が動き出した。

こいつ、すぐりの毒に耐性ついてきてないか?

さっきより動き出すのが早くなってるぞ。

これじゃあ、いつすぐりの毒が全く効かなくなるか分からない。

やはり、早いうちに始末しておかなければ。

ゆらり、と宙に浮くホウキを、俺達は鋭く睨みつけた。

この野郎…。ホウキの分際で生意気な。

へし折ってやるわ。

すると。

動き出すなり、『眠れる森の魔女』は真っ先に。

お決まりの恒例行事とばかりに、まず一番にナジュに狙いを定めた。

この野郎。ナジュを狙い撃ちにするのやめろ。

ナジュもナジュで、たまには避けろよ。

避けようと思ったら避けられるだろ、お前。

まぁ良い。

その前に、時魔法で再びお前の時間を奪ってやる。

杖を握り締め、ホウキを相対した…。

…そのとき。

「…!もう、ナジュ君を傷つけるのはやめて…!」

真っ先にナジュを狙うホウキを目にして、天音はナジュを庇うように前に出た。

「危ないですよ、天音さん。僕は別に、串刺しにされても蘇るから…」

「そういう問題じゃないよ。もう何回生き返ってると思ってるの?」

ホウキが動き出す度にやられてるから、多分二桁越えてる。

避けろよ。

「これ以上、ナジュ君を傷つけないで…!」

回復魔法が専門で、戦うことは苦手なはずなのに。

天音はナジュの前に出て、杖を握り締めていた。

お前…健気な奴。

だが、この無情なホウキには、そんな天音の優しさは通用しない…。

…と、思ったが。

『眠れる森の魔女』は、しばしその場に静止していた。

…?

ナジュに襲いかかるんじゃないのか?何故止まる?

ホウキの意図が読めずに、俺達が戸惑っていると。

『眠れる森の魔女』は、ふわふわと天音の方に向かって飛んできた。

突進したのではない。

ただ寄り添うように、天音の傍にふわふわと寄ってきた。

…??

「え、な、何…?」

これには、天音もびっくり。

俺達も、超びっくりしていた。

何だこれは。一体どういう風の吹き回しだ?

新たな攻撃手段か?これも。

しかし、ホウキはふわふわするばかりで、攻撃を仕掛けてこない。

…あ、怪しい…。

「お、おい…。天音、大丈夫か…?」

「え?う、うん…。僕は大丈夫なんだけど…。ど、どうしたんだろう…?いきなり…」

どうしたんだ、疲れたか?

ホウキに疲労なんてあるのか。

意味が分からない、と思っていると。

横から令月の小太刀と、すぐりの糸が飛んできた。
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