神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…先程の、ホウキの不可解な行動の真相は分からないまま。

およそ三時間後。

「あ、また動き出した…!」

「切り刻まれても切り刻まれても復活するなんて…。何だか親近感湧いてきますね」

ナジュ、お前。ホウキに親近感を覚える場合か。

自分が何回串刺しにされたと思ってんだ?

「来るなら来い、この野郎…」

今度こそ、時魔法でお前の時間を奪ってやる。

今度は半日くらい目覚めないよう、念入りに…。

ふわりと宙に浮いたホウキは、これまで通りなら、真っ直ぐナジュに狙いを定める…。

…はずだった。

「…え?」

それなのに、今回…ホウキの狙いは、ナジュではなかった。

『眠れる森の魔女』の狙いは、令月とすぐりだった。

何故、この二人?

先程切り刻まれた恨みを返してやる、ってことか?

意外と執念深いホウキである。

いや、偶然なのか…?それとも…。 

「何?こっちを狙う訳?…いーじゃん。かかっておいでよ」

すぐりは両手に糸を絡ませ、好戦的な目を向けた。

一方。

「さっき、一度も攻撃を掠りもしなかったのに…まだ懲りてないんだね」

令月もまた小太刀を構え、一部の隙もなく臨戦態勢を取る。

この二人なら、いかに『眠れる森の魔女』が襲って来ようとも、何の心配もないが…。

だからって、令月とすぐりなら狙って良い、という訳ではない。

「この、糞ホウキ…!狙うならこっちを狙いやがれ!」

腹立ち紛れに叫ぶも、『眠れる森の魔女』は当然、俺に目もくれない。

…まぁ、ホウキに元々目はないんだけどな。

比喩だよ、比喩。

…すると。

『眠れる森の魔女』と、令月とすぐりの間で喧嘩が勃発しようとしたところに。

「やめて…!二人を傷つけないで!」

またしても天音が、間に割って入った。

ナジュのみならず、令月とすぐりの二人も庇ってみせた。

天音の自己犠牲精神は、聖人並みである。

「もう、誰も傷つけないで…。僕達だって、望んで君を切り刻んだり、攻撃してるんじゃないんだよ…!」

…その通りだ、天音。

俺もそう思うけど、でも…心のないホウキに、そんな理屈は通用しない。

「天音、危ないから退くんだ。このくそったれホウキは俺達が…」

「ま、待って。これじゃあ、同じことの繰り返しだよ。もういい加減に…」

と、俺と天音で口論になりかけた…そのとき。

『眠れる森の魔女』は、令月とすぐりを狙うのをやめた。

…それどころか。

誰をターゲットに選ぶこともせず。

先程と同じく、天音の傍らにふわふわと飛んできて、天音にぴたりとくっついた。

…?
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