神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…まただ。この不可解な動き。これは一体…?

あ、そうだ。

「令月、すぐり、ちょっと待て」

「え?」

「何で?」

ホウキが隙を見せたと判断し、すぐさま切り刻まんと動きかけていた二人を、俺は制止した。

切り刻むのは簡単だが、その前に…ホウキの意志、とやらを確認しておきたい。

先程から見せている、この不可思議な動きは何だ?

何で天音に寄り添う?

「え、え…?」

ホウキにまとわりつかれて、天音自身も困惑している。

いつホウキが牙を剥き、天音に襲いかかるかと…俺は内心ヒヤヒヤしていたが。

『眠れる森の魔女』に、天音を襲う意志はないようで。

ただ天音の傍らに、従僕するかのように侍っていた。

…これって…?

「…天音君のことを、自分の主だと思ってるのかも…」

シルナが、ポツリと言った。

な…何だと?

主だって?天音が?このホウキの?

「そんな、まさか…」

「でも…天音君にやめてって言われた途端、いきなり攻撃をやめたんだよ。天音君の言うことを聞いたんだ」

…言われてみれば。

天音は最初、ナジュを庇い、ナジュを傷つけないよう言った。

すると、途端にホウキはナジュを狙うのをやめた。

そして次に、天音は令月とすぐりを…それに、誰も傷つけないように言った。

すると、ホウキはまたしても、天音の言うことを聞いて誰も狙わなくなった。

これを偶然と呼ぶには、あまりに出来過ぎている。

じゃあ、まさか本当に…『眠れる森の魔女』は、天音の言うことを聞いたのか?
 
それは、天音のことを自分の主…自分の契約者だと思ってる、から…?

…いや、でも。

「何で、天音が契約者に選ばれたんだ…?」

天音が契約者に選ばれたこと。それ自体は、非常に結構だ。

破壊せずに済むなら、それに越したことはない。

最初は俺達も、何とかして『眠れる森の魔女』と契約する方法を考えていたくらいだし…。

それが叶いそうもないから、ぶっ壊そうとしてたけども…。

天音が契約者に選ばれたことに、何か理由…原因が…? 

「どうだろう…。はっきりとは分からないけど…。…やっぱりこのホウキには、意志があるのかもしれない」

と、シルナは推論を語った。

…マジで?ホウキの癖に?

自分の意志を持つホウキなんて…聞いたことない、けど。

これはただのホウキではなく、イーニシュフェルトの里の賢者が作った魔法道具だから。

もしかしたら、そういうことも…ホウキに意志が宿ることも…あるのかもしれない。

にわかには信じ難いがな。
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