神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「多分だけど…。『眠れる森の魔女』は、天音君に優しくしてもらって、嬉しかったんじゃないかな」

「…」

「私達が揃って、『眠れる森の魔女』を破壊する方法を考えている中…天音君だけは、壊さずに済む方法を考えて…。それにほら、手入れもしてあげてたし」

…拭いてやってたな。タオルで。ナジュの血糊を。

まさか、あれが契約の決め手…?

そんな馬鹿な…。

しかし現状、天音が契約者に選ばれた理由は、それ以外考えられない。

「こいつ、ホウキの癖に…優しさとか、恩義とか感じるのか…」

…意外と律儀な奴なのかもしれない。ホウキだけど。

「本当にそうなの?偶然じゃなくて?」

「さぁ…。私も、あくまで推論だから…。…だけど…」

「だけど?」

「…今になって思えば、死んだ『眠れる森の魔女』の契約者だった賢者は…仲間内の中でも特に親切で面倒見が良くて…優しいって評判の人だったよ」

「…」

…成程。

契約の条件は、イケメンであることでも、優秀な魔導師であることでもなく。

ホウキにも情けをかける、優しさの塊みたいな心を持つ人間であること、だったのか。

もし本当に、そんな条件なのだとしたら…天音を契約者に選ぶのは当然というものだな。

俺達の中で、天音以上に底なしに優しい人間は存在しないからな。

「…失礼ですね、羽久さん。僕も優しいですよ。僕と来たらそれはもう、清廉潔白で清らかな心の持ち主…」

「あーはいはい。聞こえなかったことにしておくよ」

お前が清らかな心を騙るなら。

その読心魔法癖を、治してからにするんだな。
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