神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…その後。

本当に、天音が契約者に選ばれたのかどうか。

本当に、『眠れる森の魔女』に攻撃の意志はないのか。

…本当に、天音に親切にしてもらったから、天音を契約者に選んだのか。

これらを確認するべく。

「はい、天音さん。この毛布を使ってください」

「天音君、これチョコ。チョコあげてほら」

「…え、えーと…。ありがとう…?」

戸惑いながら、ナジュに毛布と、シルナにチョコをもらう。

俺はどうしよう?…えーと…。

…あ、カイロにしよう。

「天音、このカイロ…」

「あ、ありがとう…」

俺が渡した携帯用カイロを、恭しく受け取った天音は。

自分の傍らにいるホウキに向かって。

「…えっと、寒くない?毛布かけてあげる。それとカイロあげるね」

…毛布でホウキをくるみ、毛布の中にカイロをそっと入れてあげた。

そして、その横に。

「その…チョコ食べる?」

シルナにもらったチョコを、そっとお供え。

…ホウキを労ってる人、初めて見た。

分かんないもんだな、人生って。

あと、毛布とカイロはまだしも、チョコは意味ないだろ。

食べる口ないからな、ホウキ。

…更に。

「天音せんせー。これ、園芸部で育ててる花」

「あ、ありがとう」

「天音。僕、お香作ってきた。虫除け効果があるよ。これ焚いてあげて」

「あ、ありがとう…?」

すぐりは、園芸部で育てている花を。

令月は、自作の虫除けお香を、それぞれプレゼント。

いずれも、ホウキの傍にお供えしてあげていた。

すげー良いご身分。ホウキの癖に。

お殿様かよ。

しかし『眠れる森の魔女』は、満更ではないらしく。

次々と天音にお供物をもらって、満足したかのように大人しくしている。

…くつろいでる…?ホウキの癖に…?

おホウキ様、って感じだな。

ったく偉そうに…。

しかし、上げ膳据え膳のホウキは、とりあえず大人しくしていた。

天音に大事にしてもらって、満足したのだろうか。

それにしたって、ホウキに貢ぎ物を捧げるとは。

我ながら何してんだろうって思うが、これでも俺達は真面目にだな…。

「…あなた達、何をやってるんです?」

「え?」

冷たい声がして、振り向くと。

ホウキに貢ぎ物を捧げる俺達を、イレースがドン引きの様子で見つめていた。

…ホウキを毛布で優しく包み、チョコや花を供えている俺達を。

…やめろ。そんな目で見るな。

とうとうおかしくなったか、みたいな顔でこっちを見るな。

真面目なんだよ、俺達だって。

必死に頑張った結果なんだよ。

…そりゃまぁ、我ながら何やってんだろうとは思うけども。

これで一応、一件落着なんだから…よしとしてくれ。
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