神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「…それで?」

お前がハンプティ・ダンプティで?そして案内役だと。

はぁ、それは結構。

「この世界は何なんだ?俺達は何をすれば良いんだよ?」

どうせまた、いつものパターンなんだろ?

胡散臭いキャラクターが登場して、面倒なことをやらされるんだろ?知ってる。

『不思議の国のアリス』と言うからには、多分アリスが出てくるんだろう。

と、思っていたら。

「あなた方はこれより、アリスのお茶会に参加する為、お茶会の招待状を探しに行ってもらいます」

案の定、ハンプティ・ダンプティは、いけしゃあしゃあとそんなことを抜かした。

ほらな。言わんこっちゃない。

見るからに面倒臭そう。

やっぱりアリスは出てくるんだな。そりゃそうか。『不思議の国のアリス』の主人公だもんな。

しかも、お茶会って…。さっきやってたよ、俺達。元の世界で。

お茶会やってるところを中断されたのに、またお茶会やるのか。

まぁ『不思議の国のアリス』と言えば、お茶会くらいあるよな。

定番だもんな。メルヘンストーリーの。

「俺達は別に、お茶会に参加する気はないんだがな」

「そう言わず。とても素敵なお茶会ですよ」

勝手に言ってろ。

童話シリーズの魔法道具が生み出した世界で、素敵なお茶会もクソもあるか。

今すぐ、さっさともとの世界に返してくれる方が、よっぽど素敵な展開だよ。

…しかし。

「…一応…聞いておくんだけど…。その…お茶会って言うのはあれかな。お菓子…お菓子はある…?」

おい、シルナ何聞いてんだ。

お茶会と聞いて、ちょっと興味が湧いたのか。そうなのか?

お前もさっきまで、お茶会開いてたもんな。チョコレートティーパーティーとか言って。

アリスと趣味が合うのかもしれない。

するとハンプティ・ダンプティは、にっこりと笑って答えた。

「勿論。驚くほどとびきりの、素敵なお菓子が山程あるよ」

「そ、そうなんだ…!」

何顔を輝かせてんだ、お前は。
 
そんな場合じゃないだろ。

「おい、馬鹿シルナ。お菓子に釣られるな」

「い、いや。でも、驚くほどとびきりのお菓子だよ?ちょっと気になるよ」

「お前、良いように口車に乗せられるんじゃねぇ。これは魔法道具の作った偽物の世界なんだぞ?」

どんなに素敵なお菓子の出る、素敵なお茶会だろうと。

どれもこれも、魔法道具の作り出した仮初の世界の出来事に過ぎない。

「戯言に付き合ってやる義理はない。菓子なら、元の世界に帰ってから好きなだけ食べろ」

「う、うぅ…。わ、分かったよ…」

よし。それで良い。

「悪かったな。卵の化け物…いや、ハンプティ・ダンプティだったか」

俺は、ハンプティ・ダンプティを睨みつけながら言った。

「俺達は、お茶会には付き合わない。そんな訳だから、さっさと元の世界に返してくれ」

「おやおや。連れないお客人だ」

悪かったな。

だが生憎、怪しい人にはついていったらいけません、という教育方針を掲げる教師なもので。

普段から生徒に教え説いているように、俺達もまた、怪しさ満点の茶会になど付き合うつもりはない。
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