神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
…しかし。

「残念ながら…皆さんに選択権はありません」

…。

「…どういう意味だ?」

「この世界に入り込んだからには、どなたも例外なく、お茶会に参加してもらわなければなりません」

…勝手なことを言いやがって…。お茶会だと?

「もし参加されない場合、あなた方は永遠に元の世界に帰ることなく、永遠にこの世界を彷徨うことになりますが…それでも宜しいので?」

イラッ。

今、めちゃくちゃイラッと来た。

煽ってきてんじゃねぇぞ。卵の化け物が。

そして、適当なことを言うんじゃねぇ。

「その…お茶会?に参加したからって、元の世界に帰れる保証はないだろ」

「えぇ、それは勿論。そもそも、皆さんにお茶会に参加する資格があるかどうかも、まだ分かりませんから」

イラッ。

この野郎…。

「…この辺りで、一度張り飛ばしても良いでしょうか?」

「そうだな、イレース…。やって良いと思うぞ」

俺と同じく、怒りを募らせているらしいイレースである。

やってしまえ。

しかし、ハンプティ・ダンプティは構わずに喋り続けた。

「あなた方が無事にお茶会を終え、元の世界に帰れるかどうか…全ては、お茶会の場にてアリスと会ってから決まります」

「…」

「皆さんが元の世界に帰る一番の近道、そして唯一の方法が、アリスのお茶会に参加することなのですよ」

…あっそ。そりゃ大層なことで。

そうやって、俺達を無理矢理、茶会に参加させる腹づもりな訳ね。

童話シリーズの、いつものやり口だ。

そろそろ慣れてきたところだよ。お前達のやり口には。

「その…お茶会に参加するには、どうしたら良いの?」

と、天音が尋ねた。

確か、さっき…招待状がどうとか言ってたよな?

「良い質問ですね。アリスのお茶会に参加するには、招待状が必要です」

やっぱり。

「招待状…」

「えぇ。招待状を持つ者だけが、アリスのお茶会に参加することを許されるのです」

「じゃあ、その招待状を手に入れるには、どうすれば良いの?」

「それを、これからご説明します」

ハンプティ・ダンプティは、人の良さそうな笑みを浮かべて言った。

…が、こんなところに俺達を誘い込んだ時点で、こいつの人が良いなんてことは有り得ない。

そもそも、こいつは人ですらない。

気色悪い化け物にしか見えないよ。

「まずは、こちらをご覧ください」

そう言って。

ハンプティ・ダンプティは、洒落たテーブルクロスのかかった、小さなテーブルを指差した。

…このテーブルが何だって?と思ったら…。

よく見ると、テーブルの上に…カードが並べられていた。

「このカードは…?」

「アリスのトランプです」

ますますメルヘンなアイテムが出てきた。

いかにも、『不思議の国のアリス』って感じだな。
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