神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜

「皆さんにはこれから、このトランプのうちから一枚を引いてもらいます」

「…」

「トランプには、それぞれ『不思議の国のアリス』にまつわるキャラクターの絵柄が描かれています」

『不思議の国のアリス』にまつわるキャラクター…。

…ウサギとか？ハートの女王とか？そういうことだろうか。

あんまり詳しくないんだけど、俺…。

「すると皆さんは、トランプの力によって、各キャラクターごとの特別な世界に転移します」

…またかよ。

ここも充分特別な世界だろ。

異次元から、更に異次元に送られるのか。

「その世界の何処かに、アリスの招待状が隠されています。隠された招待状を見つけてください。お茶会が始まる時間になったとき、招待状を手に入れている者だけが、お茶会に参加することが出来ます」

「…」

…成程。

つまり、『シンデレラ』のときの宝探しみたいなものだな。

別の世界に送られて、その世界の何処かから、宝物…今回は招待状…を探してこい、と。

制限時間内に宝物を見つけられなかったら、お茶会には参加出来ない、と。

単純なルールだが、決して簡単なことではない。

何より、確認しておかなければならないのは。

「…その、招待状とやらを、もし見つけられなかったら？」

こんなことは考えたくないが。

『シンデレラ』のときだって、ギリギリだったのだ。

ギリギリって言うか、制限時間を無理矢理引き伸ばしただけで、本当ならアウトだったんだけど。

今回も、『シンデレラ』のときと同じかもしれない。

最悪の事態は、いつだって頭の片隅に置いておくべきだ。

「お茶会の時間になっても、まだ招待状を見つけてなかったら、どうなるんだ？」

さすがに、お茶会を延期してはくれない…よな？

そんな気遣いを、童話シリーズに求める方が間違ってる。

すると。

「招待状を見つけられなければ、お茶会には参加出来ません。お茶会に参加出来なければ、元の世界に帰ることは出来ない。つまり…」

「…つまり？」

「トランプの中の世界に、永遠に閉じ込められることになります」

…ほらな、案の定。

言わんこっちゃない。

あと、そんな笑顔で言うようなことじゃねーだろ。

他人事だと思って、へらへらしやがって。畜生。

どうしてこう、童話シリーズに出てくる登場人物達は。

揃いも揃って、人を煽ることを生き甲斐してるような性格の悪い奴らばっかりなんだ？

「皆さんに与えられた、お茶会に参加する権利は一度だけ。その一度を逃したら、招待状は消え、二度と参加することは出来ません」

「…」

「ですから皆さん、頑張って探してくださいね。皆さんが揃ってお茶会に参加出来ることを、心からお祈り申し上げます」

…いけしゃあしゃあと、この野郎。

ちょっと良いことを言ったつもりか？

それならまず、その気持ち悪いにやにや顔をどうにかするんだな。

…とりあえず、話は分かった。

この魔法道具…。『不思議の国のアリス』についても、少し理解出来てきた。

その上で…俺達がこれからどうするのか、話し合わなければならない。