神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
正直言って、状況は最悪に近い。

まぁ、童話シリーズに巻き込まれて、良い状況な訳がないが。

それにしたって最悪だ。

またしても、命懸けのデスゲームが始まってしまった。

童話シリーズって、本当、「〇〇出来なければ死ぬ」みたいな展開が多いよな。

多分、この童話シリーズを製作した者のコンセプトなんだろう。

で、これが子供の玩具なんだろ?

ふざけてるとしか思えない。

「どうする、シルナ…」

「…とびきりのお菓子か…」

おい。

俺は、シルナの胸ぐらを掴まんばかりに詰め寄った。

「お前、状況分かってるか?理解してるのか?なぁ。どう考えても菓子にうつつを抜かしてる場合じゃないだろ?」

「わ、分かってるよ羽久。そ、そんな怒らなくても」

怒るに決まってるだろ。

この期に及んで、とびきりのお菓子に釣られるな。

そんな心の余裕はないから。

「とびきりのお菓子ってどんななんだろうって、ちょっと気になっただけだよ…」

「そんなものはどうでも良い。生きて帰る方法を考えろ」

「生きて帰る方法なら、さっき卵星人(たまごせいじん)が教えてくれたじゃないですか」

と、ナジュが言った。

卵星人。確かに。

「そこのトランプを一枚引いて、異世界に送られて、そこで招待状を探す。制限時間内に招待状を見つけられれば勝ち。見つけられなかったら負け。意外とシンプルですよね」

そりゃまぁ…シンプルではあるけども…。

「招待状を見つけたからと言って、勝ちとは限らないでしょう」

イレースが横から口をはさんだ。

「茶会に参加しても、我々を返すか返さないか、決めるのはアリスだそうですから」

「そうだよな…」

招待状を見つけ、お茶会に参加することは、俺達が元の世界に帰る為の絶対条件ではあるが。

お茶会に参加しても、アリスが俺達を帰すとは限らない。

俺達が招待状を探すのは、あくまで、俺達がアリスと同じテーブルに付き。

元の世界に返してもらえませんか、とお伺いを立てる為なのだ。

返すか返さないかは、お茶会を開いた上で、アリスが決めること。

…厄介だな。

招待状を見つけたからって、元の世界に返してもらえるかは分からないが。

でも招待状を見つけられなかったら、その時点で、絶対に帰ることは出来なくなる。

従って、帰れるか帰れないかに関係なく、招待状は見つけなければならないのだ。

「最悪、お茶会の席に参加して、また別の条件を出されるかもしれないんだよな…」

招待状がなければ、参加することも出来ないアリスのお茶会。

絶対、ただのお茶会じゃない。

お茶を楽しんでお菓子を食べて、お喋りに花を咲かせて、お土産もらって和やかに帰宅、なんて。

そんなスムーズには行かないぞ、きっと。

必ず、何か一悶着ある。

けど、その前にまず…お茶会に参加出来るかどうか、だよな。

そもそもお茶会に参加しなかったら、アリスと同じ土俵に上がる事も出来ない訳だから。

「…こうなったら、腹をくくるしかないか」

どっちみち、やらなければ死ぬのだ。

なら、死物狂いでやるしかなかろう。
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