神殺しのクロノスタシスⅤ〜前編〜
「一人であろうと、複数人であろうと、やるべきことは変わりませんよ」

ハンプティ・ダンプティは、相変わらずの笑顔でそう言った。

「皆さんは、アリスのお茶会の招待状を見つけ、お茶会に参加する…。お分かり頂けましたね?」

「…あぁ」

他にも色々と、聞きたいことはある。

例えば、今すぐお前をボコボコにしたら、ワンチャン解放してもらえるんじゃないか、とかな。

下手なことをして、お茶会に招待してもらえなかったら困るから、やらないけどさ。

でも、本心としては。

俺は今すぐ、この気持ち悪い卵の化け物を張り倒してやりたい。

その衝動を必死に堪えてるんだぞ。我慢してて偉い。

「では、『不思議の国のアリス』の趣旨を理解してもらったところで…。早速、皆さんの運命決めるトランプを、一人ずつ選んでもらいましょうか」

…来たか。

とうとう…運命の瞬間だな。

せめて、少しでも難易度の低い世界に行きたいものだ。

多分、何処に行っても似たようなものだろうけど。

…すると。

「各自、トランプの世界に入ったら…『そこに書いてあることに従って』くださいね」

ハンプティ・ダンプティは、意味ありげな口調で言った。

…そこに…書いてあること?

「何処に何が書いてあるんだよ?」

「それは、行ってみれば分かることですよ」

やっぱりボコボコにしてやろうか、お前。

我慢だ俺。我慢しろ。頑張れ。

「では、どうぞトランプを引いてください。ご自身の運命を決めるトランプです。くれぐれも後悔のないよう、慎重に選んでくださいね」

「…ちっ…」

いけしゃあしゃあと、貴様。

いくら慎重に選びたくても、どのトランプがどの絵柄で、どの数字で、どんな世界かなんて、この時点では分かるはずもない。

…結局、直感で選ぶしかないってことだな。

直感か…。正直そういうのは苦手だな。

…でも…やるしかない、か。

どんな世界だろうと、要するに招待状を見つければ良いのだ。

それから先のことは、そのとき考える。

今の俺に出来るのは、信じることだけだ。

自分は必ず、招待状を見つけてくると。

そしてここにいる仲間達も必ず、招待状を見つけると。

誰一人欠けずに、再び相見えることが出来ると。

…信じてるからな。

「…分かった。それじゃ…トランプを選ぼうか」

頼りない直感に頼り。

俺はテーブルの上に並べられた、ジョーカーを除く52枚のうち、一枚を手に取った。
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